『ファーストキス 1ST KISS』との繋がり

映画『片思い世界』
©2025『片思い世界』製作委員会

 前作『ファーストキス 1ST KISS』は生きている人間(松たか子)が死んでしまった人間(松村北斗)を救おうとする物語だが、映画『片思い世界』は死んでしまった人間たちがその声を、想いを生きている人間たちに届けようとする物語だった。

 先程も述べたように『片思い世界』では「生きている人間には干渉できない」というルールだけは徹底して守られている。これまでも「死者」をテーマにした作品はいくつもリリースされているが、その殆どが干渉し合うことで物語が成り立っている。

 だが、『片思い世界』は絶対にそれをしない。子供が落としたぬいぐるみを拾うことも、車のフロントガラスを壊すことも、大切な人に想いを届けることも、何一つ叶わない。

 それはこの映画の中で最も残酷な描写であり、ある意味で坂元裕二の「覚悟」のようなものを感じた。「3人がいなくても成立する映画だ。だからつまらない」と評するコメントを見かけたが、それこそが『片思い世界』の肝であり、最も重要な部分なのだ。

 干渉はできないが、3人は普通の幸せを望み、普通に暮らそうとしている。誰にも気づかれなくても、声が届かなくても、人間の営みの中に身を置き、社会の一員であろうとする。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!