三人の関係性を象徴する「バースデーケーキ」
幼くして突然死後の世界に放り出された三人の戸惑いは想像に難くない。最年長者の美咲がリーダー役を引き受け、「三人で普通に暮らそうよ」と提案する。「ご飯もちゃんと作ろう」という言葉通り、劇中では彼女たちが一緒にご飯を用意したり食べたりしているシーンが繰り返し描かれている。食を媒介として同じレイヤーの世界に飛ばされた三人が、死後に食を重視するのはむしろ自然のなりゆきなのだろう。三人は食事する幽霊になるのである【図1】。
美咲自身は当時の自分が言ったことをよく覚えていない風だが、三人分のお弁当を用意したり【図2】、スーパーで買い物をしたりする様子から、食事を大事にしている姿勢が自ずと伝わってくる。また、生きていたときにひもじい生活を余儀なくされていた美咲には、なおさら「普通の生活」への強いこだわりがあるということかもしれない(それはまた、のちに三人の関係性に綻びを生じさせる種ともなる)。
序盤には美咲と優花がさくらの二十歳の誕生日を祝うサプライズに失敗するシーンが置かれているが、準備された料理の数々や立派なバースデーケーキ【図3】は、三人の関係性を象徴するとともに、映画全体を束ねる食のモチーフを強化している。
食事する幽霊としての三人に対置されているのが、ホラー映画のエピソードである。ポップコーンをつまみながら映画を鑑賞する三人は画面に映る幽霊(鉾久奈緒美)に思いを馳せる。おどろおどろしいいでたちをした幽霊にリアリティがないことを指摘するさくらと、それに応えて盛り上がる優花に対して、美咲は「この人お腹すかないのかな」とつぶやく。食べるものもなく、一人で孤独に過ごしてきたせいでこのような姿になっているのであって、一歩間違えれば自分たちも同じ道を辿ったかもしれないことに思い至るのである。