リリイ・シュシュのすべて 配役の魅力
主役の雄一を演じたのは、本作が映画初出演となる子役出身の市原隼人。伏し目がちな佇まいと震えるような声は芝居を超えたリアリティがあり、「演じている」のではなく、役を「生きている」といった印象を与える。それは星野役の忍成修吾や陽子役の伊藤歩にも共通しており、ともすれば、抽象的で陳腐になりかねない物語に血を通わせることに成功している。
中でも目覚ましいパフォーマンスを見せているのは、星野に援助交際を強要される少女・詩織を演じる蒼井優だ。薄幸な少女と言えば、暗く物静かなキャラクターを想像しがちだが、詩織は屈託のない笑みが特徴的な、明るい性格の持ち主である。彼女は無慈悲な現実に追い込まれ、笑みを浮かべることでしか自分を保てなくなっており、その笑顔は、暗く憂鬱な表情よりも切なさを感じさせるのだ。
若いキャストの輝きに比べると、脇を固める大人キャスト陣は、奥行きのない、ステレオタイプな存在として描かれている。星野の母親を演じる稲森いずみは、劇中で「稲森いずみ似」と言及されており、役柄自体がギャグ的である。雄一の母親役にはアナウンサーの阿部知代が扮し、演技に不慣れな様子が感じ取れる。
大人たちを頼りなく、希薄な存在として映すことで、メインアクターである少年少女の孤立無縁感を強調しているのだ。