見えていなかったもう1人の存在
「恋は盲目」という言葉があるが、本作ではそんな恋してるがゆえの「見えてなさ」を、画面のアスペクト比を4:3のスタンダードサイズすることで表現している。周りが見えなかったときに言う「俺もう(目の前で両手を平行にして縦に動かしながら)こうなってたからさ!」の「こう」の状態、視野が狭くなる様をそのまま観客にも体験させてくる。
他にも、好きな人が遠くでざる蕎麦を食べる音が「もぐもぐもぐもぐ」と可愛いオノマトペが幻聴として聞こえたり、待ち合わせにドタキャンされたときのネガティブなイメージが想像上の声や映像として差し込まれたりと、とにかく「VR恋の盲目性」がごとく主人公視点で観客を映画に没入させていく。
しかし、雷による停電でVRの電源が落ちるように、第4章「雷鳴」あたりから、観客は主人公への没入感から抜け出し、第三者的な視点で物語を見つめ始める。
その雷は狭くなった視野の外からやってくる。主人公を夢中にさせるヒロインがいれば、主人公の視野の外に追いやられてしまう脇役もいる。銭湯清掃のバイト仲間であるさっちゃん(伊東蒼)だ。