酒向芳の芝居はなぜ人の心を動かすのか? 66歳にして出演オファーが絶えないワケ。映画『花まんま』徹底考察&評価レビュー
text by 苫とり子
鈴木亮平と有村架純がW主演を務める映画『花まんま』が現在公開中だ。本作は、大阪の下町を舞台に、兄妹の不思議な体験を通して、人の哀しみや温かさを繊細に描く感動作だ。今回は、本作で重要な役どころを演じる、酒向芳の魅力に迫ったレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
涙を誘う繁田仁役・酒向芳の演技
原作は2005年に第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集。昭和40年代の大阪の下町を舞台に幼い兄妹の不思議な体験を描いた50ページほどの物語だ。それを基に、『そして、バトンは渡された』(2021)や『九十歳。何がめでたい』(2024)などで知られる前田哲監督が舞台を現代に置き換え、大人になった兄妹を中心とするストーリーとして再構築したのが今回の映画である。
両親を早くに亡くし、2人きりの家族として生きてきた俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)。大学職員のフミ子はカラスと会話ができる研究者・太郎(鈴鹿央士)との結婚を数週間後に控えており、「どんなことがあっても妹を守る」という亡き父との約束を守り続けてきた兄の俊樹は複雑な心境ながらも妹の晴れ舞台を楽しみにしていた。ところが、結婚式前日にフミ子が隠していた事実が発覚するのだ。
詳しくは後述するが、ファンタジー要素もありつつ、上方らしい笑いと涙に溢れた人情劇になっている。なんと言っても役者陣の好演が素晴らしく、最後はメイクが崩れ落ちるほど泣いてしまった。とりわけ涙を誘うのが、フミ子と不思議な縁で結ばれた繁田仁役・酒向芳の演技だ。