「ガイコツみたい」
凄まじいほどのリアリティ
『花まんま』でも、酒向は子供の命を理不尽に奪われた父親を凄まじいほどのリアリティで演じている。バスガイドの仕事中に通り魔に殺害された仁の末娘・喜代美(南琴奈)。その記憶を持って生まれたのが、有村演じるフミ子だ。
小学生の頃、フミ子は俊樹に連れ添ってもらい、記憶を頼りに彦根にある喜代美の実家へ。そこで仁の姿を見た俊樹の第一声が「ガイコツみたい」だった。
喜代美が殺された時刻にのんきに天ぷらうどんを食べていた自分が許せず、必要最低限の栄養しか取らなくなってしまった仁。もともと背が高くスラッとした体型の酒向だが、失礼ながら“ガイコツ”という表現に納得してしまうほど、やせ細って見えた。
なおかつ、仁の長女・房枝を演じるキムラ緑子とは、実年齢にして 3歳しか離れていないが、親子設定も違和感がないほどに普段より老け込んだような印象を受けるのだ。そのおかげで、説明なしでもパッと見ただけで仁が未だ深い悲しみの中にいることが伝わってくる。メイクの力もあるかもしれないが、見た目の印象も自由自在に操って、その人が送ってきた人生を物語る酒向に畏怖の念さえ感じた。
また印象的だったのは、仁とフミ子が初めて対面するシーンだ。仁はフミ子を見た瞬間、喜代美が彼女の中にいることを確信する。亡くなった人にはもう二度と会えない。でも、もし会えたとしたら、人間はこういう顔をするだろうというような表情を酒向がしていた。
前世を記憶する子供の事例は世界中で報告されており、あながちあり得ない話ではないが、それを抜きにしても役者陣がこの奇跡とも言える体験に直面した人間の反応を、説得力を持って演じているのですんなりと受け入れられる。
特に酒向が見せる反応には血肉が通っておりとてもフィクション上の人物とは思えないほどだ。良い意味で後を引くその演技を、劇場でとくとご覧あれ。
(文・苫とり子)
【作品情報】
タイトル:『花まんま』
公開情報:絶賛上映中
キャスト:鈴木亮平 有村架純
鈴鹿央士 ファーストサマーウイカ 安藤玉恵 オール阪神 オール巨人
板橋駿谷 田村塁希 小野美音 南 琴奈 馬場園 梓
六角精児 キムラ緑子 酒向 芳
原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫) ✿第133回直木賞受賞
企画協力:文藝春秋
監督:前田 哲(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』ほか)
脚本:北 敬太
イメージソング:AI「my wish」(UNIVERSAL MUSIC / EMI Records)
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