強引な展開も楽しめるWEST.の説得力

映画「裏社員。-スパイやらせてもろてます‐」
©2025「裏社員。-スパイやらせてもろてます‐」製作委員会

 個人的な感想だが、上映開始からしばらくは、話に入り込むのに時間がかかった。コテコテの登場人物に戯画化された街、リアリティより面白さ全振りのつくりに、この作品をどのように観るか、しばし迷った。

 一方で、WEST.の面々は、当人のキャラクターとは異なる役柄も果敢にものにしていた。これがある種の説得力となり、いくぶん強引な展開でも楽しんでついていける要素になっていた。「全員主演」は伊達ではない。素直にそう思った。

 なかでもいい味を出していたのは、裏社員・詳敷(くわしき)役の濵田崇裕だ。詳敷は、理屈っぽく客観的に正しいと思えることしか口にしない(より正確にいえば「できない」)のだが、彼が客観性と正しさから抜け出したとき、物語は大きく動く。

 また、本作は展開が早く、ノリや勢いでぶん回すタイプのキャラクターが多かったため、詳敷が物事の細部にこだわって時折周囲の流れを止めるのが、実に有効なスパイスになっていた。一般に、理屈っぽい登場人物は作品の味付けを濃くするために使われがちだが、『裏社員。―スパイやらせてもろてます―』ではむしろ極上の箸休め、食卓の主役を張れる漬物のように機能していたのが興味深かった。

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