「それぞれの人間の形になる」“粘土”のような主人公

映画『Sappy』
猪征大©︎NIHILISM WORKS/Cinemago

――『Sappy』冒頭場面では、屋上で猪さん演じる主人公と結城さん演じる小林がアグレッシブな肉弾戦を繰り広げます。撮影は、基本的に順撮りでしたか?

猪征大(以下、猪):屋上の場面は撮影の最後の方でしたから、共演者である(結城)あすまさんとの関係性も構築され、肩を組むように演じていました。

結城あすま(以下、結城):僕と猪君の最初の共演はバーの場面です。撮影現場で会った瞬間から、人柄の良さを感じ、本当にチャーミングな方だと思いました。

――屋上の場面やバーの場面で印象付けられるように、常に刺激を求める型破りな性格である売れっ子小説家・小林は、メフィスト的な役回りですね。

結城:小林は、人間の裏腹な部分に蓋をしていない欲望むき出しの人物だと思います。主人公をこっち側に引っ張っていきたい。なのに主人公はいきたくない。という関係性を体現できたらなと思いました。一方で小林の主張やアドバイスは、主人公だけに言っているものではありません。独り言のように自分にも言っている。これを伝えたい。こうしたい。だから早口になる。そのキャラ設定を引っ張っていく力が俳優にないとわがままな人に見えてしまう。イコール説得力にならない。だからとにかく前に進む感覚で僕は演じていました。

猪:セリフ量がすごかったですよね(笑)。僕の役は意地っぱりで孤独な人。認められたい、でもうまくいかない。考えてみると世の中みんな、勝手に自分で一人ぼっちになってそれを嘆いている。それなのに誰かと繋がりたいし、誰かに助けてもらいたい。人間の脆い部分をさらけださないように生きているだろうけど、ダダ漏れ。その上であすまさん演じる小林に振り回されています。あすまさんと僕は醸し出す雰囲気が全く違い、本当に白と黒のようなコントラストです。阿吽の呼吸を最初から感じました。僕は主役ですが、あすまさんの後ろに付いている気持ちで演じていました。

この作品は流れに身を任せています。主人公は自由に叩いて形作る粘土みたいな存在です。小林にはくっきりした形があってもいいけど、主人公はできるだけいい加減な形でいられるか、歪な形でいられるか。さらに観客がこの粘土をどういう形にするのか。この作品の主人公が、それぞれの人間の形になると思いました。

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