『Sappy』は「主人公と小林の二人を合わせた分身のような作品」

結城あすま
結城あすま©︎NIHILISM WORKS/Cinemago

――上田修生監督とはどんなやり取りがありましたか?

猪:上田監督は思い描いている画や演出が明確な方です。恥ずかしがり屋だなという印象はありますが、コミュニケーションがすごく取りやすい。一方でこっちが掴まえようとするとかわして逃げる。あっちを向いているかと思うと近づく。猫みたないな方です(笑)。

結城:僕に対しては泳がせてくれました。余白を持たせてこちらの演技を伺っている。それによって猪君との距離感を掴ませてくれたんだと思います。一方で『Sappy』は、『ファイトクラブ』(1999)などの作品から影響を受けていますが、あの作品のテーマをそれを以降の作品として具現化しているのは本作くらいではないかと感じ、上田監督が作る世界観にワクワクしました。オマージュ作品として、伝えたいことはいつの時代も同じと思います。

――猪さん演じるデリヘルドライバーの主人公には名前がありません。キャラクター造形に少なからず上田監督自身が反映されていると思いますか?

猪:僕はそう思います。自分の内面を全面的に主張するタイプではない分、作品と僕らの声を通して言いたいことを伝えている感覚がありました。

結城:間違いなく投影していると思います。小林のセリフは基本的に上田監督の言葉だと思っています。SNSに対する鬱屈した想いや認められたい気持ちをどう表現したらいいのか。主人公と小林の二人を合わせた分身のような作品だと思います。

――上田監督が本作に込めた人間の二面性の一方で、本作には創作をする人間なら誰もが感じるテーマ性が込められています。小説家を俳優に置き換えるなら、俳優にはどんな刺激が必要だと思いますか?

結城:毎日をどう生きるかだと思います。尺度はたくさんありますが、今できないことはその先もできない。僕自身、主人公たちのような葛藤があります。人間は外側に目が行きがちで、それは怖さからだと思うんです。むしろ内側にフォーカスして立ち向かっていく。どれだけ自分が感じる刺激を自分の中に作るのか。誰もガスを入れてくれないので、走るのは自分だぞと(笑)。芝居上では自分を洗練していく作業を常に実践しています。

猪:結局、俳優だろうと一人の人間でしかない。人生をどう生きるか、それを刺激と捉えるか捉えないか。全てが自分の宝物になるし、自分の人生とずっと会話していることがある種の刺激だと思います。そうした過程で、自分という存在がわからなくなってしまう瞬間は誰しもあると思います。自分らしさを大切にしていただくためにも『Sappy』を見ていただけたらと思います。

【作品概要】

キャスト:猪征大、結城あすま、川上明莉、犬童みる、土屋土、藤田晃輔、橘舞衣、吉田憲明
製作・脚本・監督・編集:上田修生
助監督:シェーク・M・ハリス 撮影監督:近藤実佐輝 美術・撮影・照明:岡上亮輔 照明:中島晴紀
録音:宇佐美滉士、高橋研人、鈴木規弘 サウンドデザイン:坂井泉
衣装・メイク:洪好綺 特殊メイク:山部那奈
アシスタントプロデューサー:出町光識 制作進行:馬上理那 監督助手:鈴木健太
音楽:大村和也、松本開志 主題歌:NOISE Re-duction「The Pain Iʼve Been Killing」
宣伝プロデューサー:KK ミュージック(加賀谷健) 宣伝美術:原真知子 予告映像:松田彰
配給:Cinemago
2025/ビスタ/カラー/ステレオ/93 分/PG-12 (C)NIHILISM WORKS/Cinemago

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【了】

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