【カンヌ現地取材】26歳で史上最年少選出の快挙。団塚唯我監督『見はらし世代』がカンヌで放った静かな衝撃。上映後取材レポート
第78回カンヌ国際映画祭・監督週間部門に選出された団塚唯我監督の長編映画『見はらし世代』が、現地時間5月16日に公式上映された。上映後には、団塚監督と主演の黒崎煌代が囲み取材に応じ、初の国際舞台での反響や、映画に込めた想いを語った。(文・山田剛志)
観客の反応が証明した「ちゃんと伝わっている」安心感
映画『見はらし世代』が、カンヌ国際映画祭監督週間部門の公式上映を終えた。監督の団塚唯我は1998年生まれの26歳。監督週間に選出された日本映画の監督の中でも、史上最年少となる。
上映を終えたばかりの心境を尋ねられた団塚監督は、「自分の映画がこうやって海外の舞台で流れているのが、まだ現実味がないんです」と少し戸惑いながらも、「でも少しずつ実感が湧いてきました。何よりも観客の皆さんからの拍手がすごく嬉しくて、素直に感動しました」と語った。
本作の原点は、監督自身の私的な体験にある。団塚監督は「自分の体験や悲しみがベースにあることは間違いない」と明かす一方、自身の体験を忠実に描くことはせず、スタッフ・キャストと共に生み出した数々のアイデアが作品を豊かにしていったという。
「最終的には“みんなの映画”になったと思っています。個人の思いから始まったけれど、そこにいろんなフィクションが重なって、一つの物語になったという感覚ですね」と振り返った。
また、カンヌでの上映を経て、映画という表現の“普遍性”を改めて実感したという。
「観た方から前向きな言葉をたくさんいただきました。『映画って本当に国籍を超えて伝わるんだな』と感じています」
映画『見はらし世代』では、偶然性を生かした演出が随所にちりばめられている。たとえば、人物の動線や、切れかけた電球のきらめきといった細部に、監督のこだわりが光る。
「映画だからこそ起こせる“偶然”の力は、強く意識して取り入れていました。日常の中にもしかしたら存在するかもしれない、でも映画だからこそ強く感じられる瞬間を、観客にどう体験してもらえるか。そのための演出には、かなり勇気が要りました」
なかでも印象的な“電球のシーン”では、カンヌの観客から大きな反応があった。「あの場面でリアクションが返ってきて、『ちゃんと伝わってるんだな』と安心しました」と微笑む。
カンヌ滞在期間中は他監督の作品を積極的に観たいと話す団塚監督。「瀬戸桃子さんの映画(『Dandelion’s Odyssey(原題)』)が気になっていて、ぜひ観に行こうと思っています。アリ・アスターやケリー・ライカートの作品も観たいのですが、チケットの予約が始まる朝7時になると即座にソールドアウト。寝坊したら完全にアウトです(笑)」と、初のカンヌを楽しむ姿も印象的だった。
『見はらし世代』を作り上げたのは、平均年齢20代という若いチーム。団塚監督自身も長編初挑戦、主演の黒崎も長編映画初主演だった。主要スタッフも“長編デビュー”が多く、フレッシュな布陣で挑んだ一作である。
「プロデューサーの山上賢治さんも含めて、初めてづくしの現場でした。でも皆、プロフェッショナルで。若さに頼るというより、一人ひとりの支えがあって作品が形になったと思っています。今振り返ると、“よく完成したな”って、本当に思います」と語る監督の言葉には、確かな充実感がにじんでいた。
映画『見はらし世代』は、2025年秋、日本での公開を予定している。
(文・山田剛志)
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【了】