鮮烈な長台詞のワンカットへと繋がる
銭湯でアルバイトをしているさっちゃんは、同じくバイト仲間である主人公・小西(萩原利久)に密かな想いを寄せる。
それは途中まで明確に語られることはない。それでも観客は、彼女が小西にさりげなく話しかける瞬間や、大学に通う姿から、その片思いを“察する”ようになる。決定的な告白や感情の爆発を待たずとも、さっちゃんの視線や言葉の選び方、佇まいそのものが、彼女の想いを静かに、確かに伝えてくる。そしてそのささやかな感情の輪郭は、観ている私たちにもいつしか共有されていくのだ。
自分の好きな音楽を聴いてもらいたい。できれば、その曲を同じように好きになってほしい。
バイトの入っていない日だって、ほんの少しでも一緒にいられるなら迷わず会いに行ってしまう。
さっちゃんのそんな一途な想いは、ほんの短いやりとりの中にも確かに息づいていて、気づけば観る側は彼女の恋を全力で応援したくなっている。
それは、小西のたったひと言に、さっちゃんがごくわずかに表情を変えたり、仕草がふっと柔らかくなったりする、その小さな反応の積み重ねがあまりにも真っ直ぐで愛おしいからだ。
そして、その感情の揺れ動きの集積が、やがてあの鮮烈な長台詞のワンカットへと繋がっていく。確かに、あの場面はこの映画の大きな見どころのひとつだろう。だが、そこに至るまでの静かな高まり――一喜一憂しながら彼女が積み重ねてきた小さな感情の断片こそが、この物語の本当の美しさであり、絶対に見逃してほしくない部分でもある。