伊東蒼を知るなら観るべき1本

©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

 そんなふうに関西弁で話す彼女の芝居を観ていると、自然と脳裏に浮かぶのは、2022年に公開された映画『さがす』での姿だ。行方不明になった父親を探し続ける中学生・楓を演じた伊東蒼の演技は、まさに圧巻だった。

 突然姿を消した父を案じる不安、取り残されたことへの怒りや悲しみ。それらをすべて綯い交ぜにした白黒つかない感情が、画面を突き抜けて襲いかかってくる。

 楓の心にはさまざまな感情が渦巻いているにもかかわらず、どこか動かしがたい「芯」のようなものが常に存在している。それが観客にも一貫して伝わってくるのは、まさしく伊東蒼という俳優の底知れぬ表現力のなせる業だろう。

 父親役の佐藤二朗による怪演にも圧倒されるが、それに決して引けを取らない――いや、時に凌駕するような存在感を、彼女はしっかりと画面に刻みつけていた。

 どちらの作品も舞台は大阪。同じ土地を背景にしていながら、『さがす』と『今日の空がいちばん好き、とまだ言えない僕は』では、そのテイストも、描かれる世界もまったく異なる。ただ共通しているのは、誰かを想いながら懸命に行動する少女を、伊東蒼が渾身の芝居で体現しているということ。

 この2作品は、今の彼女の実力と魅力を知るうえで、間違いなく観るべき“決定打”と言っていい。

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