近い未来、伊東蒼の時代がやってくる――。

映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

 2024年には、2クール続けて連続ドラマに出演し、これまでのキャリアイメージを鮮やかに塗り替えてみせた。

 フジテレビ系『新宿野戦病院』では、家庭に問題を抱えた「トー横キッズ」の少女・マユを体当たりで演じ、NHK総合の『宙わたる教室』では、大阪の定時制高校を舞台に、起立性調節障害を抱えながらも天体や科学部に惹かれていく少女・佳純の揺れる心情を、繊細な演技で丁寧に掬い取っている。

 マユと佳純は、性格も背景もまったく異なるキャラクターだ。にもかかわらず、伊東の芝居からは、日々を生きる中で自分の気持ちに蓋をしてしまう少女たちの、言葉にならない葛藤や不安が、自然と浮かび上がってくる。

 本音を飲み込み、言葉にできず、心に澱のように沈んでいくモヤモヤ。変わりたいのにどうにもならない現実に打ちひしがれる、やるせなさ。

 伊東は、役柄がどれだけ違っても、その内に秘められた繊細な感情をすくい上げ、それがこぼれ落ちないように、芝居として丁寧に差し出してくる。これほどまでに振り幅の大きい役を立て続けに演じながらも、彼女がまだ19歳だという事実には、ただただ驚かされるばかりだ。

 ドラマや映画にとどまらず、多くの舞台作品にも積極的に出演し、着実に表現の幅を広げている伊東蒼。

 今後は、かつて映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)で共演し、当時19歳で高崎映画祭・最優秀新進女優賞を受賞した杉咲花のように、映画や連続ドラマの主演を担う存在へと成長していくことだろう。

 その瞬間は、もうそう遠くない未来に、きっとやってくる――。そんな確かな予感が、今の彼女の芝居からは感じられる。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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