「監督と相談しながらセリフを選んだ」
父親を包み込む静かな優しさ
―――本作を拝見し、もし認知症になったのが父親ではなく母親だったら、あるいは、兄弟がいたら、この状況をどう分かち合っていたのだろう、といったことも考えました。
「雄太は一人っ子ですが、もし兄弟がいたら悩みを相談したり、両親のケアについて話し合ったりすることもできたはずです。身近にそういう存在がいるだけで、精神的な負担が軽くなることはあると思いますし、1人でも相談できる相手がいるだけで、感じ方や見える景色はきっと変わるのだろうなと思います。
例えば、雄太に奥さんがいたとしても、自分の親のことをどこまで深く話せるだろうかと考えると、やはり難しい部分もあるんじゃないかと思うんです。どれだけ信頼している相手でも、家族の問題って最終的には血縁関係のある家族にしか解決できないこともある気がして。だからこそ、雄太にも兄弟がいたら良かったよなという思いは確かにありました」
―――物語の後半、父親が歌詞を忘れてパニックになってしまった時に、雄太が「大丈夫、大丈夫」と何度も言っていたシーンは、思わず涙がこぼれました。
「あのシーンでの雄太の気持ちとしては、とにかく父親の動揺を落ち着かせることに必死だったんだと思います。こちらまで一緒になってパニックになったり、緊張感を共有してしまうと、それが相手に伝わり状況が悪化してしまうので、そこは冷静に『大丈夫だよ』と声をかけて、まずは安心感を与えてあげることが、パニックに陥った相手に対する大切な対応のひとつだと考え、意識して演じました。
あとは、雄太とお父さんの間だからこそ生まれる安心感もあると思っていたので、その空気感をセリフにどう込めるかについては、小泉さんとも相談しながら、『大丈夫』という言葉を選びました」