変えられない現実の中で“大切なもの”を見つける意味

松坂桃李 写真:武馬怜子
松坂桃李 写真:武馬怜子 撮影協力:Kao

―――直近の作品では、日曜劇場『御上先生』(TBS系)や、6月13日公開予定の映画『フロントライン』、さらに2027年に放送予定の大河ドラマ『逆賊の幕臣』(NHK)など、社会性のあるテーマを扱う作品や、物語の中で重要なポジションを担う役柄が増えています。以前、出演する作品に対して「届けるべき意義がある」とお話しされていましたが、今回の作品において、どのような意義やメッセージ性を感じられたのでしょうか。

「この映画は、1本の動画をきっかけに、80歳でCDデビューを果たしたイギリス人男性・サイモンさんの実話をもとにして作られているのですが、実際にサイモンさんが投稿した動画とエピソードを拝見したときに、どの人にとっても“病”や“老い”というものは訪れるけれど、その受け止め方や向き合い方次第で、あらゆる可能性を広げていけるんだなと感じました。

アルツハイマーになった父親のことをただ嘆き悲しむのではなく、失っていくものの中でも『決して失わない大切なものがある』ということを見つけられたんです。サイモンさんにとってはそれが歌で、大好きな曲を聴いたり歌ったりすることで、お父さんの情緒が安定する傾向があったので、ただ“待つ”だけではなく、寄り添うための方法はきっとあると気づかせてもらいました。状況を変えることは難しくても、視点を変えることで何か新しい選択肢が見えてくる。そんな前向きな可能性を教えてもらいました。

今回、この作品を日本で作ることによって、誰にでも病や老いは訪れるけれど、その人にとっての大切なものを見出すことで、自分自身の新たな可能性に気付ける、ある種の希望が確かに存在するのだということが、少しでも伝わる作品になればいいなと思いました。そうした想いを届けられるかもしれないということに、この作品に参加する意味を強く感じました」

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!