「これはやらなきゃダメだよなという気持ちがずっとあった」

映画『父と僕の終わらない歌』
©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

―――アルツハイマーをテーマにするうえで、記憶がなくなったり思い出したりするタイミングが、実話通りだったとしても都合よくみえてしまう、ある種“映像映えしすぎる”というような難しさもあったのではないかと思います。

「僕は以前、『ガチ☆ボーイ』(2008)という映画で高次脳機能障害という、短期記憶が続かない障害を扱ったことがあります。それも、アルツハイマー型認知症も、記憶を失う時の決まったパターンが存在しないんですよね。記憶を失う時は完全にランダム。これが事実なんですが、その通りに映画にしてしまうと、作劇として都合よく見えてしまう事があるのです。リアルなんだけど、嘘っぽく見えてしまうというジレンマ…それがすごく難しい。映画として取り扱うのが難しい題材なんですよね。なので、なるべく都合のよさを感じさせず、お客さんにとって物語のノイズにならないように事実を描くことに大変気を遣いました。

一方で、突然人が変わったように、昨日元気だった人が今日は調子が悪かったり怒りっぽかったり、そうかと思ったら数時間後にはけろっと元に戻ってるということも起こるわけです。そういう状態の人と、日常的に接することの難しさを感じてもらうのも、僕の中の1つのテーマだったので、周囲の焦りや、やりきれなさを端的に描いたシーンも作りました。なるべく嘘が無いように、でも難しさはちゃんと伝わるように、だいぶ意識しましたね」

―――大変な時間と労力をかけた末に生み出された作品なんですね。公開目前のいま、どういったお気持ちですか?

「いや~、長かったですね(笑)。企画が立ち上がってからと考えると、もう5年弱ほど経っているので。まだお客さんに観ていただいていないので完成とはいえませんが、それでもよくぞここまで来られたな、と。正直、いつ消えてもおかしくなかったんですが、スタッフやプロデューサー含め、全員がこれはやらなきゃダメだよなという気持ちがずっとあったから、なんとかやってこられたんだと思います」

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