松坂桃李&寺尾聰が魅せた親子としての距離感
―――先ほどおっしゃられた「接している人の難しさ」を、松坂桃李さんがとても繊細に演じられていた印象です。監督がご覧になっていて、ハッとした瞬間はありましたか?
「お父さんとケンカをして、桃李さん演じる息子の雄太は頭を冷やしてから戻ってくるけど、お父さんはケンカのことをすっかり忘れてお茶を飲んでいる…というシーンがあるんですけど、『お父さんはもう忘れてるのかな?』『いつものお父さんなんだろうか…』探るような表情から、戸惑いつつお茶を受け取る仕草まで、すごくよかったですね。
また、記憶に関する話とはまた別なんですけど、この作品はイギリスの親子が原案になっています。原案書籍では欧米圏らしく、親子仲がいいことをあまり包み隠さないんですね。ただ、日本においてそういう親子の関係性はあまり一般的では無いのかなと。なので、互いを愛していないわけではないけれども、それをオープンにすることもないといった距離感に、意識的につくりかえています。冒頭の結婚式のシーンで桃李さんは、やんちゃなことをするお父さんに文句は言いつつも、本心ではしょうがないなぁと認めているような表情を見せてくれています。たった1回の表情だけで伝わるものだったので、そこもさすがだなぁと思いました」
―――桃李さんと素敵な親子を演じた寺尾さんは、なんといっても歌唱シーンも見どころかと思います。個人的に歌声の温かさみたいなものをすごく感じたのですが、監督からなにかリクエストなどはされたのでしょうか?
「当然ではありますが、寺尾さんご自身がかなり音楽にこだわりを持たれている方なので、僕たちとしてはいかに気持ちよくお芝居の中で歌っていただくか、その場を整えることに集中しました。一方、桃李さんは実は歌に苦手意識があるそうで。『僕、歌はダメなんです』と冗談半分でおっしゃっていたんですが、それがむしろお父さんが歌を歌うから息子はちょっと苦手意識を持つ、という作中の親子の関係性とぴったりで(笑)。ありのままお芝居をしていただいたら僕が求めているようなシーンになるのではないかと思い、あまり小難しい演出はせず、自然にお芝居して頂きました」