今があるのは後悔があってこそ
親の心子知らずというが、恩師の心もまた生徒知らず。普通、自分の人生を描くとなったら、多少は美化したくなるだろうに、よくもまぁこんな黒歴史を包み隠さず描けたものだ。だからこそ、自分が恩師と呼べる人たちにしてしまった不義理の数々を思い出さされて、居た堪れなくなる。
結局、最後まで明子が日高に納得のいく恩返しをできないのもリアルで切ない。そう言うと救いがないように聞こえるかもしれないが、決してそんなことはなくて、観終わった後は胸に温かさが残る作品だ。
特に今回の映画は東村が自ら脚本を手がけており、ラストに原作にはないシーンがある。そこで日高が明子の背中を押すような言葉をかけるのだが、それを観た時に、東村アキコはようやく後悔を昇華できたのかもしれないなと思わされた。
タラレバ娘たちがそうだったように、人生は「あのとき、ああだったら」「もっと、こうしてれば」 のオンパレードだ。でも、そういう後悔を重ねてきたからこそ、今がある。明子もまた時に日高の声を無視して、目の前のことに没頭してきたから、漫画家・東村アキコが生まれた。
その過程で生まれた後悔も感謝も懺悔も、日高はどこかで分かっていたのではないか。東村自身も出会った頃の日高と同じくらいの年齢になったからこそ、気づけたことがあるのだろう。劇中で日高が何度も口にする「描け」というセリフは、「迷わず進め」という東村が私たちに送るエールでもあるような気がした。