東村アキコの誕生秘話

『かくかくしかじか』
©東村アキコ/集英社 ©2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

 そんな全ての人に刺さる物語であると同時に、本作は東村アキコの誕生秘話でもある。東村が学生の頃に読んでいた「りぼん」「ぶ〜け」「Cookie」といった少女漫画雑誌の当時の表紙や、「白い約束」「きせかえユカちゃん」など過去作品の原稿も登場するので、少女漫画や東村ファンは堪らないはず。

 あとがきによく登場する破天荒な父・健三(大森南朋)と仲良しの漫画家・石田拓実(長井短)は再現度が高すぎておもわず笑ってしまった。

 東村が脚本のみならず、美術や衣裳、小道具などに監修として携わっているのもポイントだ。絵画教室のシーンは東村の祖母の自宅で撮影されており、実際に当時、日高先生の絵画教室に通っていた生徒たちがデッサンの準備に協力したという。

 だからか、一度も目にしたことはないけれど、本当にこんな雰囲気だったんだろうなという説得力が画面にあった。その中で、キャストも役にどんどん入り込んでいったのではないだろうか。

 日高先生の教え子だった方が大泉洋の姿を見て泣いたというエピソードも映画のパンフレットで語られていた。永野芽郁も途中から東村にしか見えなくなってくる。

 また印象的だったのは、小道具として頻繁に登場する貝殻や骨であり、日高が劇中で「そういう残り続けていくものを描いてこそ本物の画家」みたいなニュアンスのことを言っていた。東村が恩師と日高と過ごした9年間もまたこうして一つの作品となり、誰かの心に残り続けていく。

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

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【了】

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