「過疎と民主主義」の現在地──ドキュメンタリー映画『能登デモクラシー』レビュー。石川テレビが描く地方自治の裏側とは?
text by 青葉薫
能登半島の小さな町で繰り広げられる、一見地味な自治と暮らしの記録。だがその中には、民主主義とは何か、幸福とは何かという問いが静かに、鋭く、私たちの胸を刺してくる――。地方の現実、個人の声、震災の爪痕、そして”見捨てる”ことと”支える”ことの狭間で揺れる選択。石川テレビが手がけたドキュメンタリー『能登デモクラシー』のレビューをお届けする。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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「この国の未来」はどこへ向かうのか
わたしは本作に”この国の未来”と”今の自分”を見ていた。
舞台は石川県穴水町。主要産業は里山と里海での農漁業。奥能登の玄関口に位置する風光明媚な町だ。2025年1月現在の人口は6888人。最大200万円の奨励金が用意されている移住促進ポスターも日に焼けて色褪せている。「若者と高齢者がともに減りゆく”人口減少の最終段階”」という言葉が胸を抉る。少子高齢化と東京一極集中で衰退していく地方都市。どんな政策も焼け石に水にしかなっていないこの国の断末魔が聞こえるようだ。
町の未来への舵取りをしているのは、2022年に初当選した吉村光輝町長。55歳(2025年現在)という年齢は定数10名の町会議員が軒並み70代を越えていることを思えばかなり若い。冒頭では町長が高齢者の集まる町のシンポジウムに出席している一方、少子化により閉園となる町立幼稚園の卒園式には代理人を出席させている様子が描かれている。その描写は少子高齢化の象徴のようでありながら、後に町長の人物紹介という伏線として効いてくる。
町長は人口減少の緩やかな市街地と限界集落に二極化していく穴水町で国土交通省の補助金が見込める「立地適正化計画」、すなわちコンパクトシティ化を推進している。生活に必要な機能(住宅、交通、公共サービス、商業施設など)を集約し、都市機能の効率化を図る政策だ。少子高齢化による税収の減少と人手不足が深刻化していく中で行政サービスや公共交通機関などを持続可能なものにしていくセオリーでもある。