暮らしと政治がぶつかる場所で

『能登デモクラシー』
©石川テレビ放送

 第二幕ではコンパクトシティ化で町の未来を守ろうとする吉村町長と結果として行政に見捨てられていく滝井さん夫婦の日常が描かれていく。二人は自給自足のような暮らしを営んでいる。そこにある自然に寄り添いながら日々を紡いでいる。上水道はなく、地下水を汲み上げてタンクに貯水したものを三世帯に分配している。タンクの設置こそ公費だというが、管理は自分たちでやってきたという。

 二人の暮らしは慎ましくも幸福感に溢れている。妻の順子さんはいつもしあわせそうに笑っている。この土地での暮らしを、そして滝井さんを愛し慈しむ思いが全身から溢れている。二人は元教員で職場結婚だという。滝井さんの手書き新聞「紡ぐ」にあるやさしさやあたたかみは教員として発行してきた「学級便り」にあるのかもしれないと感じた。子どもたちの健やかな成長を見守るように、町の未来を見守っている。教室の隅で困っている子どもに声を掛けて手を差し伸べるように、町で困っている人に声掛けをしている。滝井さんは今も教師なのだ。

 並行して、本作の本丸ともいえる吉村町長の企みが明らかにされていく。

 穴水町のコンパクトシティ化――すなわち「立地適正化計画」で見込まれる61億円の補助金を巡る利益誘導型の政策だ。町長が理事長を務める社会福祉法人が建設する「多世代交流施設」が補助金を使った基幹事業のひとつになっているのだ。しかも、建設地は前町長の所有する土地を借り上げて行われるという。

 町長と前町長の私利私欲と取られても不思議ではない政策が議会では全会一致で可決されていた。古い秩序やしきたり、序列を重んじる閉鎖的な”ムラ社会”となった穴水町の民主主義が機能不全に陥っていることが明らかにされていく。「過疎と民主主義」というテーマこそが目指していた作品だったと五百旗頭監督はインタビューで語っていたが、撮影真っ最中の2024年1月1日、能登半島地震が起きたことで本作は、そして穴水町は監督ですら想像していなかった方向へと展開していく。

 それが震災後の穴水町に密着し続けた第三幕だ。

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