リアルな裁判シーンに注目
“出る杭は打たれる”。この国の現実を突きつける
金子の逮捕を受けて、「開発者が逮捕されたら弁護する」と語っていた弁護士・壇俊光(三浦貴大)が弁護を引き受け、弁護団を結成する。その中には、かつて幾つもの刑事事件を担当し、無罪判決を勝ち取った経験を持つ切れ者の秋田真志(吹越満)もいた。
逮捕した警察や、罰を与えるためには手段を選ばない検察側は、前例なきサイバー事件に接し、懲罰感情ばかりが上滑りしている様子が伺える。それは、反対尋問の場で秋田によって論破されるシーンに繋がる。金子氏の事件から20年以上経った現在でも、警察のサイバー事件に対する知識の浅さ、経験不足は相変わらずだ。捜査手法が時代に追い付いていないのだ。
もう一つの物語として、京都から遠く離れた四国の愛媛県警では、裏金工作が横行し、正義感あふれる仙波敏郎(吉岡秀隆)は内部告発を図ろうと、その時を見計らっている。一見、何も関係のない2つの事件が並行して描かれ、ウィニーを介して繋がっていく様も、この作品の見どころの一つだ。また、東出が演じる金子氏や、吹越が演じる秋田弁護士などの濃いキャラクターがぶつかり合い、裁判シーンは非常にリアルなものとなっている。
そして今日、違法ダウンロードはなくなったのかといえば、否だ。著作権法の改正によって、刑事罰化されたにもかかわらずだ。たとえ、金子氏がウィニーを開発しなかったとしても、あるいは公開しなかったとしても、誰かが同じようなソフトウェアを開発していただろう。
しかし、その人物が金子氏のような高い志を持っているとは限らない。もし悪意のある人物だったとしたら、さらに収集の付かない事態を引き起こしていた可能性もある。
作中で語られる「殺人に使われた包丁を作った職人は逮捕されるのか」の例え話が、本作の主たるテーマであり、金子氏はその“職人”に過ぎない。しかし、最高裁で逆転無罪を勝ち取ったとはいえ、一審では罰金刑の有罪。その上、金子氏は東大での研究職を追われた。その事実が明るみにするのは、“出る杭は打たれる”この国の現実である。
そんな環境からは、新たなイノベーションなど起きようがない。そのようなことを思い知らされる作品だ。
(文・寺島武志)
3月10日(金) TOHOシネマズほか全国公開
【作品情報】
『Winny』
監督・脚本:松本優作
出演:東出昌大 三浦貴大
皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大
金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎
渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満
吉岡秀隆
企 画: 古橋智史 and pictures
プロデューサー:伊藤主税 藤井宏二 金山
撮影・脚本:岸建太朗
照明:玉川直人 録音:伊藤裕規
ラインプロデューサー:中島裕作
助監督:杉岡知哉
衣裳:川本誠子 梶原夏帆 ヘアメイク:板垣実和 装飾:有村謙志
制作担当:今井尚道 原田博志
キャスティング:伊藤尚哉
編集:田巻源太
音響効果:岡瀬晶彦
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
音楽:Teje×田井千里
制作プロダクション:Libertas
制作協力:and pictures 配給:KDDI ナカチカ 宣伝:ナカチカ FINOR
製作:映画「Winny」製作委員会(KDDI Libertas オールドブリッジスタジオ TIME ナカチカ ライツキューブ)
原 案: 朝日新聞 2020年3月8日記事 記者:渡辺淳基
2023 │ 127min │ color │ CinemaScope │ 5.1ch
(C)2023映画「Winny」製作委員会
公式サイト