「これまで積み重ねてきた経験が、演技に投影された」映画『ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜』主演・大地真央、インタビュー
日本のファッション界のレジェンドであるコシノアヤコの波乱万丈な人生を描いた映画『ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜』が現在公開中。今回は、コシノアヤコの15歳から92歳までを1人で演じた、主演・大地真央さんにインタビューを敢行。印象に残ったシーンや、役へ込めた思いなど、たっぷりとお聞きした。(取材・文:ZAKKY)
「初めはおこがましいという気持ちがあった」
脚本を読んで感じた“演じたい”という思い
ーーー最初に脚本をお読みなになった際、どう感じましたか?
「コシノアヤコさんの人生がとにかく面白く、ご本人が本当に魅力的な方だなと思いました。最初は『私なんかが演じていいのかな』とおこがましい気持ちもありましたが、読めば読むほど『演じてみたい』と思わされる存在でしたね。ご本人の著書や、娘さんの描かれた漫画などもすべて目を通して、参考にさせていただきました」
ーーーコシノアヤコさんを演じてみた、率直な感想をお聞かせください。
「本作では、15歳から92歳までのコシノアヤコさんを演じているんです。そもそも、私には無理がありますよね(笑)。それでも、非常に大きな経験になりました。120分という限られた時間の中で、1人の人生を描くというのは、時間に換算すれば1分にも満たないわけで…。『すべてを出しきれたか?』と聞かれれば、やはりまだ足りない部分はあったかもしれません。
でも演じていくなかで、『この人はやっぱり“ゴッドマザー”だ』と感じる瞬間があって、そう思えたことが本当に貴重な体験だったと感じています」
ーーー特に何歳のころに重きを置いて演じたということでは、なかったのですか?
「特定の年代に重きを置いたというよりは、全体的にバランスよく、“コシノアヤコ”というひとりの女性の全体像を見せられたら…と考えていました。舞台『ガブリエル・シャネル』(2009、2011)でガブリエル・シャネを12歳から72歳まで演じたことはありますが、やはり映画はまた別の難しさと魅力がありますね。
三姉妹の母としての姿や、子育てに対する確かな手腕をお持ちだった方なのだと、ご本人の著書などを読んで強く感じました。そうした印象を胸に、彼女の人物像にじっくり向き合いながら、役に挑ませていただきました」
「演じながらアヤコさんの魅力を改めて感じた」
ーーー今回演じられたコシノアヤコさんは、70歳で自身のブランドを立ち上げた方でもありますね。
「『遅すぎるなんてことはない』というコシノさんの言葉がとても印象に残っています。明るくて、人が好きで、お祭りも大好き。何歳になっても前向きで、ハッピーなエネルギーを持ち続けている…そんな生き方が本当に素敵だと感じました。私自身がそうかは分かりませんが、『こんなふうに人生を歩めたら素晴らしい』と、思わせてくれる存在で、演じながらその魅力を改めて感じました」
ーーー特に印象的だったシーン、または難しかった場面はありましたか?
「すべてです。それくらい、中身の濃い作品だと思います。あえて挙げるとすれば、やはり、ミシンで服を裁縫するシーンですね。昔の足踏みミシンを使っているのですが、私は初めて触ったものだったので、最初は苦戦しました。でも監督に『上手!』と言われると嬉しくて、だんだん楽しくなってしまいまして(笑)。
しかもそのミシンと糸は、ご本人が使っていた同じ型の物を、用意してくださったんです。なので、見た瞬間、なんだか思わず手を合わせたくなるような気持ちになりました」
「リアルなエピソードを参考にした」
本人を知るリアルな声が演技のヒントに
ーーー特に意識したポイントは、ありますか?
「コメディタッチの場面も多いですが、笑いの中にもその人の人生がにじむように意識しながら演じました」
ーーーもともと、コメディはお好きなのでしょうか?
「好きですね! コメディって、1番難しいジャンルだと思うんです。だからこそ、観てくださる方が自然と笑顔になってくれると嬉しいし、そういう中でこぼれる涙も、本物のように思えるんですよね」
ーーー映像作品と舞台では表現の方法も大きく異なると思いますが、演じ方において意識的に変えていることはありますか?
「舞台は幕が開いたら、すべて役者に委ねられますから、NGもありません。でも映像は細かく編集されていくので、細部の表情や所作がより問われる気がします。ただ、“その人を生きる”という根本的な姿勢は、どちらも変わらないと思います」
ーーー今回の役を演じるにあたって、舞台経験で役に立ったことはありますか?
「チャールストンを踊るシーンなどでは、舞台で踊った経験が役に立ちました。また、アヤコさんをよく知る方々から、お話を伺ったことも大きかったです。ちょっとした仕草や、ある状況で彼女ならどんな言葉を発するか等、リアルなエピソードを参考にしながら、そうした要素を演技に少しずつ取り入れていきました」
退団後40年にわたり歩んできた女優人生
ーーーコシノアヤコさんを演じることによって、ご自身の半生も振り返ることもあったのではないかと推測しますが、いかがでしょうか?
「私自身、アヤコさんとは正反対で、何をやっても中途半端な人生だったんです。振り返ると、4歳のころに日本舞踊を習い始めたのですが、すぐにやめてしまって。小学生の頃もピアノやそろばん、お習字といろいろ習ったのですが、どれも長続きしませんでした。中学では剣道部やテニス部に入ったものの、それも続かず…そんな10代を過ごしていました(笑)」
ーーーとても意外です。宝塚を経て、女優として第一線でご活躍されていますが、“続けること”についてどう感じていますか?
「そんな私が唯一続けることができたのが、宝塚歌劇団だったんです。音楽学校から数えると14年以上、劇団に所属していたのは12年間です。ただ、タカラジェンヌとしては早い退団にあたるので、“14年も”というより、“14年しか”という感覚ですね。
退団の際には、劇団の方々から何度も引き止めていただきましたが、そこから映像作品などを含めた女優としての道が始まり、気づけばもう40年…。そう考えると、アヤコさんを演じさせていただくことは畏れ多いことではありますが、これまで積み重ねてきた経験が、演じる上で自然と役立っていたように思います」
ーーーこの作品を通して、大地さんご自身の心に深く残った言葉はありますか?
「アヤコさんは“ゴッドマザー”としての存在感がありますが、その根底には、アヤコの父親の言葉があるんです。『向こう岸、見ているだけでは渡れない』というその言葉は、アヤコさんの著書の中でも印象的に綴られていて、私自身も初めて読んだ時から強く心に残り、救われた言葉でした。この一言が、アヤコさんの人生の原動力になったんだと感じています」
(取材・文/ZAKKY)
〈スタイリスト〉
江島モモ
〈ヘアメイク〉
石月裕子
〈衣装クレジット〉
ドロシーシューマッハ、マナ ローザ ジュエル
【作品概要】
監督:曽根剛
脚本:池田テツヒロ
製作総指揮:瀬古口精良
エグゼクティブプロデューサー:井内徳次 友田ゆうき
スーパーバイザー:伊藤崇行 青木義明 上原満 能登潤一郎 中井厚志 古塩勝彦 手塚泰生 生水義一
撮影:曽根剛
ドローン撮影:市川範之
編集:曽根剛
音楽:宅見将典
主題歌:Skoop On Somebody
キャスト:大地真央、黒谷友香、鈴木砂羽、水上京香、浅田芭路、永尾柚乃、江原璃莉、木村祐一、温水洋一、市川右團次
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