「従来のホラー映画とは一線を画す設定」映画『見える子ちゃん』中村義洋監督が語る新しい恐怖の形とは? 単独インタビュー

text by 斎藤香

累計発行部数が330万部を超える泉朝樹の人気ホラーコメディー漫画『見える子ちゃん』が実写映画化され、6月6日(金)より全国公開中。今回は、監督・脚本を務めた中村義洋にインタビューを敢行。本作の制作経緯や主演・原菜乃華のキャスティング理由、さらには撮影現場でのエピソードまで、たっぷりお話を伺った。(取材・文:斎藤香)

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奇抜なクリーチャーから“心霊”へ

映画『見える子ちゃん』メイキングカット
映画『見える子ちゃん』メイキングカット ©2025『見える子ちゃん』製作委員会

―――映画『見える子ちゃん』の監督をすることになった経緯について教えてください。

「本作のオファーがあったのは、2020年、新型コロナウイルス感染拡大で、エンターテインメント界もさまざまな活動が慎重に進められていた時期でした。僕自身、コロナ禍にホラー映画制作をすることに抵抗があり、当時はホラー関連の仕事は断っていたんです。

ですが、『見える子ちゃん』は、従来のホラー映画とは一線を画す作品で、“霊が見えるけど無視する”という設定が非常に良いと思ったのと、以前、同じような設定の脚本を書いたことがあったので、この企画に乗りました」

―――脚色するにあたって、気をつけたことなどはありますか?

「原作漫画は、四谷みこ(原菜乃華)の心の声で状況が説明されます。原作に沿って脚本を書いたものの、ナレーションはやはり過去形になってしまうので、心の声をなくしました。

また、原作漫画には奇抜なクリーチャーが次々と出てくるのですが、映画でクリーチャーがずっと出続けているのは厳しい、絵が持たないと思ったので“心霊”にしたんです。僕は『ほんとにあった! 呪いのビデオ』(1999~)シリーズを手掛けていて、心霊映像は山ほど見ているので、原作の泉朝樹先生の許可もいただいて脚色させていただきました」

「霊を無視し続けるというところに笑いの要素がある」
霊が出っ放しなのに怖くない…新感覚ホラーの狙い

映画『見える子ちゃん』
©2025『見える子ちゃん』製作委員会

―――本作は、学校が主な舞台となり、女子クラスのにぎやかな雰囲気や生徒たちの可愛らしさが印象的でした。演出面で、どのように生徒たちを盛り上げていたのでしょうか?

「学校シーンのメインイベントは、文化祭です。僕も学生時代に文化祭は経験していますが、クラスで団結して何かを作り上げるということはあまりなくて、当時は、軽音楽部でバンド活動を楽しめれば十分だと思っていたくらいです。今回の撮影では、生徒役の子たちにそれぞれキャラクター設定やグループ構成を用意しましたが、それ以外の部分は、彼女たちの自主性に任せることが多かったです。

最初に教壇から『50代の私が学校生活や文化祭のシーンでいろいろなことを言っても、多分それは全部間違っていると思うので、みなさんのやり方で盛り上がってください』とお願いしました。休み時間のシーンでは、踊っている子もいれば、ダンスをしているところをスマホで撮っている子もいて、自分たちで工夫して演じてくれました」

―――『見える子ちゃん』はホラー作品ですが、怖がらせることに軸足を置いていないという印象があります。どういう映画に仕上げようと思ったのでしょうか?

「ホラー映画で怖いのは、出る直前までなんですよ。少しだけ見えるまでがピークで、ドーンと出ちゃうとあとは恐怖心がサーっと引いていきます。しかし、この映画は霊がずっと出ている映画なので、強烈な怖さはないのですが、みこが霊を無視し続けるというところに笑いの要素があるのではないかと思います。一応恐怖シーンとして演出しているのですが、ずっと霊が出ているから、目が慣れて怖くなくなるんですね」

―――この映画にはある種、仕掛けがありますよね。物語終盤、巧妙な伏線が回収されると、切なくなったり、泣けたりするという物語の展開に驚きました。

「最初からよく観ていれば違和感に気づくと思います。ネタバレになるので詳細は避けますが、ある人物の話し方、セリフの内容、思春期の娘のいる四谷家の様子など、ちゃんとヒントは散りばめています」

オーディションで抜群の存在感を見せた原菜乃華の “目力”

映画『見える子ちゃん』
©2025『見える子ちゃん』製作委員会

―――原菜乃華さんなど、キャストの中で中村監督が決めた俳優はいるのでしょうか?

「みこ役の原菜乃華さんはオーディションで決定しました。彼女は“目”が良かったんです(笑)。オーディションの最後に『思い切り目を見開いてください』と言ったら、想像以上に見開いてくれて。『そんなに目って大きく開くんだ』と。オーディションに来てくれた俳優、全員にやってもらいましたが、原さんが1番良かったです。それだけで選んだわけではありませんが(笑)」

―――みこの親友・百合川ハナ役に久間田琳加さん、みこと同じく霊が見える生徒・二暮堂ユリア役になえなのさんがキャスティングされましたが、彼女たちは?

「久間田さんと組むのは今回初めてなのですが、本読みのときから久間田さんがハナ役で良かったと思いました。この映画は、みこが霊に取り憑かれた親友ハナを助けるというのがメインのストーリーなので、ハナが魅力的じゃないと説得力がなくなってしまうんです。その点、久間田さんは大当たりでした。

なえなのさんは、少し喋っただけで、面白い子だとわかったし、ユリアは個性的な子で、この映画の中では飛び道具的な存在。なえなのさんであれば、個性を消さず、そのまま演じてくれればイケると思いました」

―――京本大我さんが助演のポジションで先生役というのも意外でした。主演のイメージが強いので。

「本作は準備期間が長かったんです。最初、京本くんは山下幸喜くんが演じた生徒会長・権藤昭生役に名前が上がっていました。当時の京本くんの年齢ならぴったりだったのですが、いざ制作がスタートする頃になると彼が20代後半になり、もう生徒会長役は無理かなと思ったんです。そしたらスタッフから遠野善の役をお願いしてみたらどうかと提案があり、それならぴったりだと。山下くんもスタッフの提案によるキャスティングです。遠野も生徒会長も、芝居が上手くないと務まらない難役だったのですが、本当に上手く演じてくれました」

名作ゾンビ作品から学んだ“笑いと恐怖”の融合

映画『見える子ちゃん』
©2025『見える子ちゃん』製作委員会

―――中村監督が影響を受けたホラー映画はありますか?

「中田秀夫監督の『リング』(1998)、韓国映画の『箪笥』(2003)は怖かったですね。僕が手がけた『ほんとにあった! 呪いのビデオ』も『リング』の影響を大きく受けています。僕はもともと怖がりなので、どういう状況になったら怖いかというのがわかるんですよ。

ゾンビ映画である『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)は特に好きですね。コミカルな要素がある作品からも、自分の作品でも取り入れたりしていました。でもあまり怖くない作品を作り続けていたら、自分が観客だった頃を忘れている、このままではダメだと思い、しばらくホラーから離れていたんです」

―――その後、『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』(2016)で再びホラー映画を手掛けられたんですね。

「原作者の小野不由美さんが『ほんとにあった! 呪いのビデオ』が好きで、映画化にあたり、僕を監督に推薦してくれたんです。頑張って作り続けていた作品を評価してくださったんだと、とてもうれしかったですね。自分の作ったホラー映画を怖がってくれる方がいると気持ちは上がりますし、やはりホラー映画は最高のエンターテインメントだと思います」

―――確かにホラーは恐怖を楽しむエンタメですから。

「見終わったあと『大丈夫、自分は生きている!』と安心できるのがいいですね(笑)」

『見える子ちゃん』の次は“本気の恐怖”へ

映画『見える子ちゃん』
©2025『見える子ちゃん』製作委員会

―――ここ数年、日本映画はアニメも含めて外国映画を上回る興行収入を記録するなど、業界全体として好調に見受けられますが、中村監督は現在の日本映画の状況をどのように捉えていますか?

「僕は映適(日本映画制作適正化機構)に関わっていまして、日本映画は近年、興行的には活気付いていると思われていますが、実際に撮影現場で働いている私たちからすると、表面上の活気とは裏腹に、現場の声が外に届いていないという実感があります。

撮影現場で働くスタッフたちがより健やかに仕事ができる環境を整えることが必要だと感じ、映適を通して、少しでも現場の改善に貢献したいと考えています。

活動が本格的にスタートして2年経ち、労働時間の短縮など一定の成果は見られるものの、いまだに厳しい労働環境に置かれている現場もまだまだありますから…。今後は、こうした取り組みをさらに浸透させて、業界全体で健全な撮影現場を実現していくことが課題ですね」

―――日本映画がより発展するためにも、スタッフが健康的に働ける現場作りは大事なことですね。では最後に『見える子ちゃん』は怖がらせないタイプのホラー映画でしたが、次にホラーを作るとしたら、どのような作品を作りたいですか?

「次はホラー映画を真正面からやります。本当に恐ろしい恐怖映画を作りたい。それをやらないといけないと思っています」

(文・斎藤香)

【作品概要】

『見える子ちゃん』
2025年6月6日より大ヒット上映中
原 菜乃華
久間田琳加 なえなの 山下幸輝
堀田茜 吉井怜 / 高岡早紀
 京本大我 滝藤賢一
原作:泉朝樹「見える子ちゃん」(MFC/KADOKAWA刊)
脚本・監督:中村義洋
製作幹事・配給:KADOKAWA 制作プロダクション:ツインズジャパン 
©2025『見える子ちゃん』製作委員会
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【了】

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