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「本当に嫌われていると思った」
加害者を演じた松浦りょうにかけられた言葉

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――元妻役のMEGUMIさん、さらに、藤森慎吾さん、真矢ミキさんなど、共演者の印象と撮影現場で印象的だったエピソードを教えてください。

「真矢さんとは初めてご一緒したのですが、最後の言葉には、包み込むような優しさと含蓄が込められていて、台本を読んだ時に想像したものを超えて、胸に迫るものがありました。

藤森さんとの共演も初めてでした。チョウハン監督は求めているイメージが確固としていて、だからこそ、俳優は高いハードルを求められるのですが、藤森さんは監督の求めに適応するのがとても速く、すごく器用な方だと思いました。例えば、監督から『これはやめてくれ』と言われると、俳優はアジャストするのに苦労するものですが、藤森さんはそのあたりの作業が非常に上手い方だと思いました。

娘役の(鳴海)花音ちゃんとは、共演シーンはほとんどないんですけど、一緒にパンケーキを食べるなど、共に過ごす時間を作りました。僕にも大切な家族がいますし、その意味では克の気持ちを理解する手掛かりになるのですが、それでもやっぱり、自分に娘がいるという感覚を少しでも掴んでおきたかったのです。

だから スマホの待ち受けも、しばらくは花音ちゃんでしたね。劇中で克がスマートフォン越しに在りし日の娘を見つめるシーンがありますが、それ以外にも、僕のスマートフォンのフォルダには花音ちゃんの動画が収められていて、撮影中はそれをよく見ていました」

――加害者である夏奈を演じた松浦りょうさんの“眼力”が印象的です。共演するシーンは多くないものの、どれも非常に鮮烈です。

「僕は、オーディションにも立ち会わせていただいて、その時に彼女の芝居を見て素晴らしいと思いました。現場でも本当にすごい芝居をされていましたし、特に克と対面するシーンでは、震えるような演技を見せてくれていますよね。このシーンでは、お芝居とはいえ、お互い役になりきって、本当の気持ちで目の前の存在に向き合えたと思います。

実は彼女とは、現場で一切話をしていなかったんですよ。共演が決まって顔合わせをした際に、『僕、現場では話さないからね。でも気にしないでね』と伝えてはいたのですが、彼女は撮影中、僕に本当に嫌われていると思っていたようです。

最後に彼女のシーンが終わった時、僕はハグしに行ったのですが、その瞬間号泣して『本当に嫌われていると思った』と言われたので、『ごめんね。そんなことないよ』って伝えました。やっぱり僕も、あまり慣れたくない気持ちや同情心を持ちたくはなかったので…。最後に誤解を解くことができて良かったです」

――松浦りょうさんが演じた夏奈からは、人を殺めた人が持つ独特のオーラみたいなものを感じました。

「一見、無表情でありながら、その眼の奥に揺れ動くものがありますよね。克として向かい合った時に、ある種の諦めに近い部分も見えますし、でも、やっぱり分かってほしいという気持ちも、瞳の奥に感じます。2人が対面する場面では、彼女のお芝居に対して素直に反応するように心掛けました」

――先ほど松浦さんの眼差しについて言及しましたが、尚玄さんの眼差しの演技も印象的でした。特に法廷のシーンは、動くこともできず、言葉も発せず、目の前の人物を眼差すことしかできません。感情を言葉にもできないし、アクションにも起こせないという、非常に難しいシチュエーションだと思いますが、法廷のシーンに臨む上で意識したことはありますか?

「もう、芝居ではないですね。本当に克としてそこにいて、動向を見守っていたというのが正しいんじゃないですかね」

――おそらく(傍聴席の)位置関係がとても大事ですね。座席の正面にいる人物、視界の端に映る人物が誰なのかによって、眼差しのお芝居は変わっていきそうです。

「クランクインの前に、実際に裁判所に足を運んだんですよ。僕が傍聴席にいて、被告人が柵の向こうにいる。復讐しようと決心して、このくらいの距離だったら襲いかかることが可能かなとか、克の気持ちになっていろんなシミュレーションをしました」

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