「最後に頼れるのは、自分の意志と覚悟」映画『フェイクアウト!』俳優・三浦獠太を作った“人生の教訓”とは? インタビュー
借金返済のため騙し合いに巻き込まれた青年の行く末を、視点が変わるたびに展開が二転三転する“羅生門スタイル”で描いた映画『フェイクアウト!』が絶賛公開中。今回は、主演を務めた三浦獠太さんにインタビューを敢行。作品への思いや、俳優デビューのきっかけとなった意外なエピソードについてたっぷりお聞きした。(取材・文:タナカシカ)
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巻き込まれ型主人公の魅力
―――本作は、ストーリーが二転三転し、物語の視点が変わるごとに感情が揺さぶられ、最後まで楽しみながら拝見しました。堀江慶監督とは、別の作品で意気投合したとのことですが、本作の出演については、どのようなお話があったのでしょうか?
「堀江慶監督と出会ったときに、『いつか映画を撮ろう』と声をかけていただいたのですが、正直その時は、その場のノリと言いますか、リップサービスのようなものだと受け止めていて、まさか本当に実現するとは思っていませんでした。だからこそ、その半年後に今回の作品のお話をいただいたときは、『本当に形にしてくれたんだ!』という驚きと感動が大きかったです」
―――台本を読んだ際の感想をお聞きできますか?
「ストーリーが二転三転するので、文字だけで読んでいると少しわかりにくい部分もあって、最初は『これはどういうことだろう?』と戸惑いました。でも、何度も台本を読み返すうちに、『なるほど。こういう構造になっているんだ』と腑に落ちて。その時には、『これが映像になったらどうなるんだろう』という期待やワクワク感が大きくなっていきました」
―――ご自身が演じられた高島誠人という人物を、どのように解釈されたのでしょうか?
「いわゆる“ザ・主演”というようなキャラクターではなく、高島誠人を中心に、周りでいろんな出来事が巻き起こっていく――。そんな構造の物語だったので、彼自身が能動的に引っ張っていくというよりも、起こる出来事を受け止めて語っていく“語り部”のような立ち位置だと感じました。主演として自分が前に出るという意識よりも、物語の渦に自ら飛び込んでいくというイメージでした」
監督との信頼関係が導いた“自由度の高い”演技アプローチ
―――騙し合いが繰り広げられるサスペンス作品でありながら、高島が登場するシーンは思わずクスっと笑ってしまうようなコミカルな一面も感じられました。監督からは、高島という人物像についてどのような演出があったのでしょうか?
「演出という演出はありませんでした。作品に入る前から監督と仲良くさせていただいてたというのもあって、最初は『もしかして僕に気を遣っているのかな?』と思いました。そこで、『遠慮なくもっと言ってください』とお伝えしましたが、『大丈夫! 大丈夫!』って(笑)。いい意味で肩の力が抜ける雰囲気の現場でした」
―――機密データを持ち出し電話で交渉を行うシーンでは、切羽つまった高島の緊迫感が、声のトーンの高まりとともに如実に伝わり、非常に印象的でした。このシーンを演じる上で、特に意識された点や心掛けたことがあれば教えてください。
「監督からは『ここが高島にとって1番の見せ場で、作品の肝になるシーン』だと、話がありました。ただ、あまり考えすぎるのは良くないと思ったので、『高島が今なぜこの場にいるのか』『何をしようとしているのか』といった“目的”と“状況”を自分の中にしっかりと落とし込み、自然な感情の流れを大切にしながら演じることを意識しました」
―――ファミレスでの借金取り立てのシーンでは、取り立て屋役のNON STYLE・石田明さんとの間に、どこか旧知の仲のような親しみやすさが漂っていたのが印象的でした。あの独特な関係性を表現するにあたって、どのような演出があったのでしょうか?
「もともとの台本にあったセリフが、親しみのあるトーンだったことに加え、高島自身が“借金を背負わされた側”という設定だったため、いわゆる威圧的な取り立てではなく、石田さんの持ち味であるユニークさを最大限に活かしたいという意識が、キャストやスタッフの間で自然と共有されていました。だから、僕もその空気感を大切にしながら演じました」
―――借金の取り立て屋に向かって「彼女にプロポーズするつもりなんです」と報告する場面には、思わず笑ってしまいました。石田さんとのシーンでは、アドリブのやりとりもあったのでしょうか?
「特にはありませんでしたが、石田さんのセリフのニュアンスには即興的な面も感じられて、演じていて楽しかったです」
家族の影響で染み込んだ名作たち
―――キャリアについてお聞きします。ドラマ『グランメゾン東京』(2019)で俳優としてデビューされてから、今年は大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』にもご出演されています。俳優を目指そうと思ったきっかけをお聞きできますか?
「元々、とんねるずさんに憧れがあり、カラオケに行くとよく、とんねるずさんの真似をして盛り上げていたんです。そんな中で、その場にいらした芸能関係者の方が、『エンタメの世界に進むべきだ』と声をかけてくださって。それが、大きなきっかけになりました。
最初に参加したお芝居のワークショップでは、台本に沿うのではなく、『自由に何かを表現してみて』という指示が出て、それがすごく楽しかったんです。講師の書いた本に『俳優は努力でなれる』とあって、その言葉に背中を押されました。『努力なら自分にもできるかもしれない』と、俳優という仕事への入口は本当にそんな軽い気持ちからだったんです」
―――とんねるずさんに憧れていたとのことですが、最初は俳優をやりたいというより、エンタメ全般に興味があったのでしょうか?
「どちらかというと“人を楽しませたい”という気持ちが1番にありました。人が笑っていたり、盛り上がっている空気がすごく好きなんです。映画やドラマもそうですけど、観た人たちが『あのシーン良かったよね』と盛り上がっているのを見るのが楽しくて。表現の形はとんねるずさんとは違うかもしれませんが、そういう“人を楽しませる”という軸は、自分の中で今でも大切にしています」
―――映画やドラマなどは普段からよくご覧になっていたのでしょうか?
「いろんな作品を幅広く観るというより、好きな作品を何度も繰り返して観るタイプなんです。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)は、子どものころから何度も繰り返し観ています(笑)」
―――小さい頃からということは、ご家族の影響も大きかったのでしょうか?
「そうですね、父が大好きで。僕が幼い頃から散々観させられました。セリフもほとんど言えるくらいです(笑)」
―――ご家族の影響って、思った以上に大きいですよね。
「本当にそう思います。父の影響で観ていた古い映画の中には、現代の価値観だと少し合わないような表現もあったりしますが、“粋な男”を描いた作品が多くて、そういう世界観が今でも好きです」
「最後に頼れるのは、自分の意志と覚悟」
俳優・三浦獠太を作った家訓とはー。
―――日本サッカー界のレジェンドである三浦知良さんの背中を見て育ったことは、ご自身の役者業にどんな影響を与えていると思いますか?
「どんな状況でも『最終的には“自分”が頼りだ』というのが、家訓みたいにあって。どちらかというと、『最後に頼れるのは、自分の意志と覚悟』というメンタリテイを大切にしています。
それは役者という職業だからというよりも、自分の人生全体において貫いてきた姿勢です。“ストイック”というのとは少し違いますが、自分との戦いに勝つという意味では、ずっと自分の中にある“人生の教訓”だと思っています」
―――役者という枠を超えて、生き方そのものに通じる考え方ですね。その強さと覚悟が演技にも滲み出ているのかもしれませんね。ちなみに、三浦さんご自身が出演された作品について、ご家族から感想をもらうことはありますか?
「『見たよ!』くらいですね(笑)。僕が出演しているから観たというよりは、『この人が主演だから見ていたら、あなたも出ていたのね』みたいな感じです(笑)」
―――最後に、ネタバレ厳禁の作品ですが、これから鑑賞する方に向けて、注目してほしいシーンを少し教えていただきたいです。
「『何も考えずに楽しんでほしい』という言葉に、この作品の魅力が詰まっています! まさに“考えるより感じる”映画です。何かを考えて観るというよりは、何も考えずに楽しんでいただけたら嬉しいです」
(取材・文:タナカシカ)
【作品情報】
出演:三浦獠太 浅川梨奈 矢柴俊博 久保田秀敏 呉城久美 石田明(NON STYLE) 永澤俊矢 菅田俊 葉月ひとみ 田中優樹
監督:堀江慶/脚本:片山直樹/撮影:百束尚浩/照明:松島拓夢/録音:浅田将助/ヘアメイク:山 田季紗/スタイリスト:山川恵未/音楽:高木洋/制作担当:山本宗介/助監督:清水賢一/編集:堂 山紗苗/VFX:宮田明広キャスティング:渡邉直哉
製作・企画:Colossus Pictures
制作プロダクション:CORNFLAKES
配給:ギグリーボックス
© ️2025 Colossus Pictures LLC 2025年作品/カラー/上映時間:114分
公式サイト
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【了】