観終わっても“ぞわぞわ”が止まらない…鑑賞中に抱く「違和感」の正体とは? 映画『ドールハウス』考察&評価レビュー
長澤まさみが主演を務める映画『ドールハウス』が全国公開中。本作は、亡き娘にそっくりな人形に翻弄される家族の恐怖を描いたドールミステリー。今回は、日常のさりげない描写に張られた伏線や、観終わった後に感じる”ぞわぞわ”の正体など、本作の魅力を紐解いていく。(文・近藤仁美)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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“娘に似た人形”がもたらす恐怖のはじまり
6月13日(金)公開の映画『ドールハウス』は、『ウォーターボーイズ』(2001)『スウィングガールズ』(2004)などで知られる矢口史靖が原案・脚本・監督を務めた作品だ。主演は長澤まさみ。主題歌は、人気バンド「ずっと真夜中でいいのに。」の『形』である。
この物語は、5歳の娘・芽衣(本田都々花)を亡くした主婦・鈴木佳恵(長澤まさみ)が、骨董市で芽衣によく似た人形を購入するところから始まる。佳恵は人形をかわいがることでしだいに元気を取り戻し、新たな娘・真衣も生まれたのだが、それと反比例するかのように人形に関心を示さなくなっていった。
やがて、真衣は亡き姉と同じ5歳に成長した。ひょんなことから例の人形をみつけ、一緒に遊ぶようになった真衣。すると家では、様々な怪奇現象が起きはじめた……という筋だ。
ゾクっとくる仕掛けの妙
さて、私はふだん『リング』(1998)の貞子すら直視できない怖がりなのだが、本作は「ドールミステリー」と銘打たれていたので、エンタメ要素に期待して(?)鑑賞した。結論からいえば、これは大正解だった。息もつかせぬ展開に、華麗な伏線回収。重層的に織りなされたストーリーが、恐怖の波となって絶え間なく打ち寄せた。
特に見事だったのは、作中に登場する道具や情報に、それぞれきちんと意味があったことだ。これから観る人もいると思うので詳述は避けるが、主人公夫婦が購入する洗濯機の型式からYouTubeに転がっていた一見残念な動画まで、最初は何気なく出てきたものが、時間を追うごとに“だからこうだったのか”と観る者を納得させる要素として立ち上がってくる。
これらは、その場限りの怖さの演出とは、明らかに一線を画すものだ。様々な連関は、やろうと思えば「どうだ、すごいだろう」と見せびらかすことだってできる。それをあえてせず、ある種上品に最適な場所に置き、ふと気づいた瞬間に芯からゾクッとさせる。このあたりのバランスが、本作を上質のエンターテインメントたらしめている。
恐怖の中で不思議と湧き上がる爽快感
また、佳恵をはじめとする登場人物たちは、時間を追うごとに人形が「ある」というより「いる」ものとして扱うようになっていった。これは鑑賞する側にとっても同様で、人形にまつわるいきさつを知るにつれ、「え、この扱いって気の毒じゃない?」「そりゃ暴れるよね。無理もない」という気持ちになってくる。
しかも、こうした感傷は、ラストシーンで人形自身によって覆される。救いがないのに、なぜか痛快。そんな、独特の感想が浮かぶ映画体験だった。
個人的に少し気になったところは、ごくわずかに、工夫によってかえって現実に引き戻される点があったことだろうか。たとえば、効果音で逆に怖さがやわらいだ点や、人形に詳しくないはずの人物が難読の専門用語をさらっと音読した部分、人形の表情が変わりすぎて、いわゆる“不気味の谷”的恐怖が失われたところなどがあった(と勝手に感じた)。
とはいえ、外野はなんとでも言えるのである。注目すべきは、制作陣がこの複雑な仕掛けとストーリーを緻密に具現化したことであり、「あえて言うなら付け合わせの好みが……」レベルの話は、かなりの枝葉である。
観終えても続く“ぞわぞわ”の正体
特に評価したいのは、“恐怖の人形”という定番テーマを扱いつつも、親と子や、そこから想起される「これで一見落着だね」という安い感動に向かわなかった点だ。このように、物語の軸がしっかりしている分、それを侵食するかのように散りばめられた子どもにまつわる身近な事故の話題が、非常に生々しく効いてくる。
「もしかしたら、あのニュースの陰にもこんなことが……?」本作を観ると、ついそう思わずにはいられない。私事ながら、上映終了後は約20分も“思い出しぞわぞわ”が続いた。しかも、鑑賞からしばらく経っても、何かと新たな発見がある。まさにふれ込みどおりの「エンターテインメント」だった。
【著者プロフィール:近藤仁美】
クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。株式会社凰プランニング代表取締役。これまでに、『高校生クイズ』『せっかち勉強』等のテレビ番組の他、各種メディア・イベントなどにクイズ・雑学を提供してきた。国際賞「Trivia Hall of Fame(トリビアの殿堂)」殿堂入り。著書に『クイズ作家のすごい思考法』『人に話したくなるほど面白い! 教養になる超雑学』などがある。
【作品情報】
■タイトル:『ドールハウス』
■原案・脚本・監督:矢口史靖
■出演:長澤まさみ 瀬戸康史
田中哲司
池村碧彩 本田都々花 今野浩喜 西田尚美 品川徹
安田顕 風吹ジュン
■主題歌:ずっと真夜中でいいのに。「形」(ユニバーサル ミュージック)
■配給:東宝
■公開日:2025年6月13日(金)
■撮影期間:2024年3月~5月
■コピーライト:©2025 TOHO CO., LTD.
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【了】