「自分の価値観で幸も不幸も決めちゃいけない」映画『愛されなくても別に』主演・南沙良が演じていて一番に感じたこととは?
映画『愛されなくても別に』が7月4日(金)より公開される。「響け!ユーフォニアム」で知られる小説家・武田綾乃の同名小説を原作とした本作は、毒親のもとで生まれ育ち、人生を奪われて来た3人の大学生の物語。今回は、主演の南沙良さんにインタビューを敢行。本作への想いを語っていただいた。(取材・文:あまのさき)
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自分の居場所が、自分を縛ることもある
―――作品を拝見して、南さんが演じた宮田陽彩の心のことをすごく考えてしまって。江永雅(馬場ふみか)や木村水宝石(本田望結)の言葉を受けて、だんだん陽彩の呪縛みたいなものが解けていく物語なのかなと思いました。一方で観る側としては自分の無意識の加害性を見つめられる作品だな、とも思ったのですが、南さんはどういうふうに捉えていますか?
「陽彩にとって母親や家族というのものが自分の居場所であると同時に、自分を縛っているものでもあったと思うんです。でも、難しいですよね。人生において愛されることがすべてではない、という作品のテーマが本当にすべてだと思うんですけど。わたしも、一概に自分の価値観で幸も不幸も決めちゃいけないなというふうにはすごく思いましたね」
―――陽彩は母親のことを心の奥底では恨む気持ちもあったんじゃないかなと思いました。
「ずっと母親から搾取され続けてきた人生ではあると思うんですよね。それでも自分は母親のことを愛していたし、母親も自分のことを愛してくれていた。だからこそ、現実を直視しないというか、問題から目を背け続けているっていうのはもちろん理解できますけど、複雑ですよね。その不安定さみたいなものは、ちゃんとお芝居でも現れたらいいなと思って演じていました」
―――今回は原作がある作品ですが、映画化の前から読まれていましたか?
「出演することが決まってから読みました」
―――原作と比べると、かなりセリフが削ぎ落されている作品かなと思うんですけど…。
「そうですよね!」
―――その意味で、台本から役作りをするって難しいことだったんじゃないでしょうか?
「そうですね。なので、もちろん原作は参考にしました。陽彩、江永、水宝石(あくあ)の3人が抱えているものはそれぞれ重たいものではあるけど、そこまで悲観的じゃないというか。いい棘のある、いい悪口が原作にはたくさんあって、それがとても面白いなと思いました。そういう原作の雰囲気を大事に、あまり重くなりすぎなかったらいいなというふうに思いながらやっていました」
―――そのあたりの匙加減みたいなものは監督とお話して?
「いえ、あまり現場でお話するという感じではなかったですね。都度都度話したいことがあれば話すというか。基本的には委ねていただいていました」
―――監督とは2回目ということもあって、やりやすさもあったのでしょうか?
「たしかに、安心感はあったかもしれません。空気感が似ているというか、監督が『こんな感じで』と言われたことも、なんとなくわかるというか、『ああ、こういうことかな』と読み取れるのでやりやすいです」
「自分の考えを言語化するきっかけになりました」
座学でのアクティングコーチレッスンも
―――監督とのやりとりで印象的なものはありましたか?
「やりとりというか、クランクインする前に、監督から役についての年表や、実際に映画にはないシーンの台本をいただいて、それを演じてみたりという時間がありました。役作りとは少し違いましたが、わたしはそれがあったから、自分が陽彩を演じるということが想像しやすかったですね」
―――アクティングコーチのレッスンもあったそうですね。
「そうなんです。お芝居ってそもそもどうやるんだっけ? みたいなことを座学で学ばせていただきました。以前お芝居のワークショップなどはやったことがありましたが、そういう機会は初めて。ちゃんとお芝居について勉強することがなかったので、いい機会でしたね。楽しかったです。いままでは感覚で役をつくっていくことが多かったので、自分の考えを言語化するきっかけになりました」
―――今回、馬場ふみかさんが同級生の役ですけど、実年齢は7つ離れているんですね。
「そうですね、本当に“お姉さん”って感じでした。わりと役と並行するように、だんだん距離が近づいていったかもしれません。馬場さんと一緒にいると力が入り過ぎず、自然体でいられる感じがしました。何を話したかは具体的には覚えていないくらい、毎日たわいもないことを話していましたね」
―――気が合ったというか、話しやすかった?
「わたしはそう思っています(笑)」
―――現場は和やかだったのかなというのが想像されますが、心情的にもしんどいシーンが多いなかで、特に辛かったシーンはありますか?
「基本、辛くないシーンもなかったんですけど(笑)、なんだろうなあ…でも、母親の部屋で通帳を見つけてしまうところは、やっぱり陽彩のなかで爆発じゃないですけど、溜め込んでいたものが出るシーンだと思うので、感情をしっかり表現するということは意識しましたね」
物語の先の陽彩と江永の関係性は?
―――個人的に『愛されなくても別に』というタイトルが絶妙だなと感じていて。そうは言いつつも、陽彩が江永に、江永が陽彩に出会ったように、愛がない状態では生きられないのかなと思ったのですが、南さんはいかがですか?
「わたしは、人生において愛されていることの意味や価値というものって本当にあるのかなと、お芝居をしていても、作品を観ても感じました。みんながそれぞれに何かを抱えて生きていて、でもそれって人と分かち合うことはできないと思うんです。たとえ家族であっても。大切な人とか、それこそ家族とか自分自身とか、自分が身を置いている環境など居場所となっているはずのものが、時として自分を苦しめるものにもなる、なりうるということを、頭の片隅に置いておくべきだなと作品を観て思いました。それが一番感じたことかもしれないです」
―――最後に、陽彩を演じた南さんにぜひ聞いてみたいのですが、このあとの2人の関係性ってどうなっていくと思いますか? いつまで続くのかな、と想像するのが個人的にすごく楽しかったんですけども。
「ね! わかります、どうなるんですかね?」
―――現実社会ではこのあとコロナ禍があって…2人の生きる世界にも同じようにそれが襲ってきたらどうなるんだろう? と。
「たしかに! 作品の世界はまだコロナ前ですもんね。でも、やっぱり陽彩と江永の関係性ってすごく特殊だと思うんです。家族でもないし、友だちでもない、絶妙な距離感で…。きっと環境も変わるだろうし、気持ちの変化もあるだろうけど、心で繋がってはいるんじゃないかなと思います。関係が続いていてほしいというのは希望ですからね。どうなんだろう、わたしも武田さんに聞いてみたいです(笑)」
【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
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【了】