「僕ららしい雰囲気のまま演じられた」『劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット』荒木飛羽&曽野舜太、インタビュー
2024年に放送されたドラマを再編集し、オリジナルエピソードを加えた『劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット』が、現在全国公開中である。今回は、主人公・三島フトシ役を演じた荒木飛羽さんと、桐野マコト役の曽野舜太さんにインタビューを敢行。本作への思いをお聞きした。(取材・文:タナカシカ)
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原作との出会いがくれた気づきと共感
―――本作の原作漫画を、始めて読んだ際の印象を教えてください。
荒木飛羽(以下、荒木)「最初に原作を見たとき、表紙がすごくおしゃれで目を引かれて、『どんな話なんだろう?』と興味を持ちました。読み始めてみると、僕が演じる三島の感情はもちろん、登場人物ひとりひとりが抱える思いや葛藤がとても丁寧に描かれていて、『もし自分だったらどうするだろう』と考えさせられました。じっくり味わいながら読みたいと思いながらも、気づけば物語に引き込まれて、読み終えた後、改めて『すごい作品だ』とおもいました」
曽野舜太(以下、曽野)「複雑なテーマを扱っている作品ということもありましたが、コミカルな描写と複雑な問題にしっかり向き合うバランスが絶妙でした。僕が演じる桐野に関しても、家族の中で片方の親は応援してくれるけれど、もう片方は反対しているというような状況は、自分自身とも重なる部分があり、自然と感情移入できました。作品を通して、こうした問題と改めて向き合うきっかけをもらえた気がしています」
役作りに取り入れた“女性的な美意識”
―――荒木さんは、“かわいい自分に変身する”ことを心の支えにしている三島フトシを、曽野さんは、そんな三島をいじめながらも自身のセクシュアリティに葛藤する桐野マコトを演じています。それぞれ、繊細で複雑な内面を持つキャラクターですが、お2人はそれぞれの役をどのように解釈されたのでしょうか?
荒木「三島は、“かわいいもの”が好きなキャラクターですが、実は僕も昔からそういうものが大好きなんです。スマホケースもかわいいデザインのものを使っていて、よく『これ君の?』と驚かれることもあります(笑)。
撮影現場には、普段から一緒に寝ているダッフィーの大きなぬいぐるみを持ち込んでいました(笑)。そばにあると自然と気持ちが落ち着くんです。そうした感覚は三島と重なる部分でもあったので、自分自身を投影しながら、無理なく役に寄せていけたと思います」
―――実際に“かわいいもの”が好きという点で、三島と自然にリンクしていたんですね。曽野さんは桐野マコト役をどのように役を解釈されましたか?
曽野「桐野は、自分の思いを隠すために三島をいじめてしまうという、非常に複雑なキャラクターです。まずは原作の世界観を丁寧に読み解くことから始めました。
これまで、口紅を塗ったり、爪を整えるといった感覚は自分にとって身近ではなかったのですが、役作りの一環として実際に体験することで、桐野の内面に少しずつ近づいていきました。感情の根っこや行動の理由は台本や原作にしっかり描かれていたので、繰り返し読み込みながら役を深めていきました。気づけば、原作も台本も何度も読み返していました」
―――普段は意識しないような“女性的な美意識”にも実際に触れてみることで、役に深く入り込めたんですね。荒木さんは準備期間で何か準備したことはありますか?
荒木「今回の役作りでは、『ここは少し調整しないと』という意識は特になく、むしろ“素の自分”のままで自然と役に入っていける感覚がありました。なので、あえて作り込まずにそのまま演じました」
初共演とは思えない自然な関係性
―――本作は、お2人の会話シーンが印象的で、特に、三島と桐野が屋上で楽しそうに語り合う場面は、観ているこちらまで楽しい気持ちになりました。今回が初共演とのことですが、実際にご一緒されてみていかがでしたか?
荒木「曽野さんは、すごく優しくて現場ではずっとお話ししていました。普段、撮影現場では時間に追われるとピリッとする瞬間もあるものですが、今回はそういった場面も特になく、明るく穏やかに過ごせたので楽しかったです」
曽野「確かにずっと話していましたね(笑)。演技について細かいやりとりなどはありましたが、基本的には構えすぎることなく、自分たちらしい雰囲気のまま演じられたと思います」
荒木「それこそ、物語終盤の自転車のシーンは、撮影自体も大変でしたが、感情を作るのが難しくて苦労しました。『桐野と一緒に居たいという気持ちをしっかり作りたい』と、曽野さんに伝えたところ、カメラが回っていないときもそばにいてくださって、本当に支えられました。真剣なやりとりがある一方で、プライベートでは明るく楽しく過ごせたので、すごくバランスのいい関係を築けたと思います」
―――お2人の信頼関係がしっかりと映し出されていたように感じます。作中、桐野が三島を支える場面が多く描かれていますが、演じる上で意識したことはありますか?
曽野「三島と桐野はお互い支え合う関係ではありますが、桐野が三島を引っ張ったりカバーしたりする姿が描かれています。2人は同級生という設定ですが、桐野については少し年上にも見えるような“大人の包容力”を意識して演じるようにしました」
スクリーンで再発見した“相手の魅力”
―――完成した作品をご覧になって、どんな印象を受けましたか? ご自身が演じた姿を見て感じたことがあれば教えてください。
曽野「スクリーンの大画面で改めて観たとき、まず『この景色、本当に綺麗だな』と思い、登場人物の表情もよりはっきりと伝わってきました。再編集された本作を観て、ジェンダーや家族、地方の閉鎖的な環境など、改めて複雑なテーマに真正面から向き合っていると感じました。多くの方にもう一度観ていただけたら嬉しいです。完成した映像を見て、改めて『自分、よく頑張ったな』と素直に思えました」
荒木「僕も、映像が美しいという点は感じました。劇場版として公開されることに『どうなるんだろう』と、少し身構えていた部分もありましたが、完成した作品を観て、三島たちの夏、彼らの物語が、大きなスクリーンの中に丁寧に描かれていたので、ドラマ版とはまた異なる感動がありました。大きな画面でその世界観を味わえるのは、本当に嬉しかったです。ドラマ版ももちろん大好きですが、劇場版も同じくらい、いや、それ以上に愛着のある作品になりました」
―――お互いのお芝居、映像に映ったものに関してどういう印象を受けましたか?
荒木「桐野が可愛らしく映っていて嬉しかったです。特に、三島と仲良くなってからの桐野が個人的にすごく好きなので、劇場の大画面で改めてその表情や仕草を観られて良かったです。『やっぱり好きだな』と改めて思いました」
曽野「僕自身も『可愛いな』と感じましたが、それ以上に、自分の目で見ていた景色や瞬間が、そのまま映像としてスクリーンに映し出されていたことに驚きました。あの時の記憶がそのまま蘇ってくるような感覚でした」
―――今回の現場で2人が1番学ばれたことはありましたか?
荒木「自分にとっては、リップを塗るのも、三島のようなキャラクターを演じるのも初めての挑戦でした。特に難しかったのは、三島にとって“普通”のことが、周囲の反応によって“特別”や“難しいこと”に見えてしまうという点です。
その気持ちを自分の中に落とし込むか、どれだけシンプルに捉えられるかを意識しました。 “好き”という感情は本来、僕たちがサッカーを楽しむような、ごく当たり前のことで、それが揺らぐ状況を演じるのは難しかったですが、自分にとって大きな成長になりました」
曽野「役者としても人としても、多くを学べる作品でした。『ありのままの自分でいていい』と気づけたことは大きかったです。芝居では、感情をストレートに出すのではなく、『抱えているものが行動に表れる』ことを意識しました。
特に、三島に出会うまでの桐野は、内に抱えていた思いが言動ににじむ役柄だったので、それをどう演技に落とし込むか、観た方が、後から『あの時の行動にはこんな背景があったんだ』と気づけるような、余白のある芝居を目指しました」
それぞれが心を動かされた“お気に入りの映画”
―――お2人共、『映画チャンネル』にご登場いただいていますが、最近ご覧になった映画の中で、「印象に残った」「好きだな」と感じた作品があれば、ぜひ教えてください。
曽野「最近観た映画…僕は、『レミーのおいしいレストラン』(2007)ですね」
荒木「僕は最近観た映画ではないですが、『ラブ&ポップ』(1998)や『恋する惑星』(1994)など、映像が綺麗な作品が好きです。特に、少し特殊な表現や独特な演出に魅力を感じます。どちらかというと、僕は物語よりも映像に感情が動くことが多いかもしれません。もちろん、『ユージュアル・サスペクツ』(1995)のような展開のある作品も好きですが、やはり映像にグッとくることが多いです。でも、『レミーのおいしいレストラン』大好きですよ(笑)」
曽野「最近フランスに行った影響で、そういった作品ばかりを観ていたのですが、『そういえば観たことないな』と思って、行きの飛行機で観たんです。その後、パリのディズニーランドにも行って、アトラクションに乗ったりして…」
荒木「ギャップですね(笑)」
(取材・文:タナカシカ)
・荒木飛羽衣装
ブランド名:Casper John、remer
スタイリスト:shogo sone
ヘアメイク:反田やよい
・曽野隼人衣装
ブランド名:GalaabenD
スタイリスト:平松彩希
ヘアメイク:高松れい
【作品情報】
荒木飛羽
曽野舜太 藤本洸大
片田陽依 金井美樹 富岡晃一郎 池田有希子 鳥居みゆき 宮下今日子
市川しんぺー ⻄原誠吾 千代田信一 加治将樹
荻野友里 黑沢あすか /酒井若菜
阿部顕嵐
原作:永井 三郎
(コミックBe「スメルズ ライク グリーン スピリット」/ふゅーじょんぷろだくと 刊)
監督:澤田育子
脚本:新井友香 音楽 中村 中
エグゼクティブプロデューサー 菊池貞和 平体雄二 プロデューサー 中村美香 宮田幸太郎
撮影:佐藤康祐 照明:大和久健 録音:柴田陽一郎 編集:増田嵩之 選曲:榊原聡志
美術プロデューサー:木村文洋 美術:横守 剛 衣裳:塩野谷由美 ヘアメイク:染川知美
インティマシーコーディネーター:西山ももこ 監督補:寺田明人 製作担当:萩原 満
メイキング:宮崎陽介 ビジュアル写真:枝 優花
製作プロダクション:スタジオブルー
製作:「劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット」製作委員会
配給:ポニーキャニオン
©「劇場版 スメルズ ライク グリーン スピリット」製作委員会
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【了】