「役と向き合う姿に刺激を受けた」映画『この夏の星を見る』桜田ひより&水沢林太郎が語る、互いへのリスペクトと信頼関係

text by 斎藤香

辻村深月の小説を原作とした映画『この夏の星を見る』が、7月4日(金)より公開中。本作は、コロナ禍で複雑な思いを抱える中高生たちの青春を描いた作品。今回は、主演を務める桜田ひよりさんと、共演の水沢林太郎さんにインタビューを敢行。撮影の裏側、共演について、俳優としての未来などさまざまな話を伺った。(取材・文:斎藤香)

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辻村深月の世界に入れる喜びと難役への挑戦

桜田ひより 写真:武馬怜子
桜田ひより 写真:武馬怜子

―――映画『この夏の星を見る』は、みずみずしく爽やかで素晴らしい映画に仕上がっていましたね。まず、森野マッシュさんが手がけた脚本を最初に読んだときの印象と、登場人物である亜紗と凛久をどのように解釈されたかをお聞きできますか?

桜田ひより(以下、桜田)「脚本を読む前に原作小説を読みました。以前から辻村深月先生の小説が大好きだったので、『辻村先生の世界に入れるんだ』という喜びと、同時に、愛情深く描かれていた亜紗という役をたくさん研究して、たくさんの愛を注ぎながら演じようと思いました。

脚本で重要だと思ったのは“スターキャッチコンテスト”のシーン。全国3カ所で天文部の部員たちが手作りの望遠鏡で天体観測をするコンテストです。茨城の高校生・亜紗は“スターキャッチコンテスト”に懸ける思いが誰もよりも強く、コロナ禍の中、コンテストをオンラインで開催しようと企画し、実施に向けて積極的に行動する人物です。私としては、この映画の最大の見せ場である“スターキャッチコンテスト”に、観客の皆さんにも夢中になっていただきたいと思い、亜紗として熱い思いを込めて取り組みました」

水沢林太郎(以下、水沢)「僕は、だいぶ前に原作小説を読んでいて『これを実写化するのか。でも、どうやって?』と思いました。映画化が難しい作品ではないかと感じたんです。しかし、脚本には小説の核となる部分が繊細かつわかりやすく描かれていたので読みながらワクワクしました。凛久の演じ方について、山元環監督ともたくさん話し合って撮影に臨みました」

―――凛久はミステリアスな部分が多く、演じるのが難しかったのでは?

水沢「とても難しかったです。凛久は複雑な事情を抱えているので、喜びたくても喜べない、みんなの輪に入りたくても入れないというもどかしさがありました。しかし、観客の皆さんに悲しい人だと思われたくなかったので、そこはお芝居を考えて、凛久の個性を大切にして演じることができたと思います。本当に脚本が面白かったし、共演の皆さんも実力のある方ばかりだったので、気合も入りました」

リアルな高校生活さながらの撮影現場

水沢林太郎 写真:武馬怜子
水沢林太郎 写真:武馬怜子

―――本作は、コロナ禍で活動が制限される中、天文部の部員たちがリモート会議を繰り返しながら、茨城、東京、長崎の五島列島の高校生がオンラインでコンテストを開催する物語です。桜田さんと水沢さんは、実際に茨城県の高校でロケしたそうですね。

桜田「はい。その学校の家庭科教室を俳優たちの楽屋として使わせていただいたんです。休憩のときなど、教室の机を向かい合わせにしてお弁当を食べたり…高校生に戻ったみたいでした(笑)」

水沢「僕は、大判焼きをみんなで食べたことが印象深いです。冷めてしまっても、みんなで食べると美味しくて。そんな時間も含めて、僕も高校生に戻った感じがありました」

桜田「茨城チーム、東京チーム、五島列島チームは、オンラインで繋がりながらコンテストに挑戦するという設定ですが、私たち、本当にほとんどお会いしていないんです。別々に撮影していたので『みんなどんなふうに撮影しているのかなと。会いたいな、お話聞きたいな』とずっと思っていました」

水沢「僕も東京と五島列島のキャストの皆さんの話を聞きたかったですね」

―――天文部の高校生という役柄でしたが、もともと天体観測に興味はありましたか?

桜田「私が通っていた学校には天文部がなかったので、新鮮なことばかりでした。ただ、夜空を見上げて星を見たりするのは好きなので、望遠鏡で星を見ることができてうれしかったです。“スターキャッチコンテスト”みたいに土星を見たんです! 望遠鏡を持っていないと見ることができないので、とても貴重な経験でした」

水沢「小学生の時に、授業で星について学んだ記憶があるくらいなのですが、もともと興味はありました。僕は水瓶座なので、水瓶座ってどんな形なんだろうと調べてみたりしていました。今でも、宇宙、星座、銀河という世界には心惹かれます。撮影前に望遠鏡の使い方や仕組みを教えていただけたこともいい経験になりました」

“顔が見えない”からこそ生まれた想像力

桜田ひより 写真:武馬怜子
桜田ひより 写真:武馬怜子

―――本作は、時代設定がコロナ禍ということもあり、登場人物たちは常にマスクを着用している設定でした。お互いの表情が見えづらい状況の中で、どのようなことを意識して演じられましたか?

桜田「マスクをつけて演じることについては、それほど気にはならなかったのですが、目しか見えないので、相手の表情が読み取りにくく、情報が半減してしまうと感じました。『今のセリフに対して相手はどういう感情になったのだろうか』と、想像力を駆使して考えを巡らせました。

受け取る表情や感情に対して、いつもよりも敏感になっていたかもしれません。しかし、それは決して悪いことではなく、想像したり、相手を思い合ったりする気持ちが育まれた時間でもありました」

水沢「僕もマスクしてのお芝居は、相手から発信される情報が限定されてしまうと感じました。気持ちを受け取ること、こちらからマスク越しで発信することなど、難しかったです。それはお芝居だけでなく、スタッフの方々もマスクしていたので、撮影合間の会話でも感じることもありました。誤解されないように言葉を選んだり、しっかり伝えることを心がけたりしていました」

―――マスクを着けた状態での演技が続く中、外す瞬間も描かれていました。マスクを外して芝居をする際、気持ちに変化はありましたか?

桜田「ひとりのシーンでマスクを外す場面があったのですが、あれは“本当の亜紗”が見える瞬間だったと思います。普段は、明るく前向きな亜紗が、思い通りにいかずに悩んだり、立ち止まったりする姿が表れる場面なので、マスクを外して表情が見えることで、より感情の動きが伝わる演技ができたのではないかと思います」

水沢「僕は正直、マスクを外すのが怖かったです。ずっとマスクをしていたので顔をすべて見られる怖さを実感しました。凛久は隠していることもあったので、マスクを外したら、すべてが曝け出されてしまうと感じてしまって…。そんな気持ちになったのは初めてです」

お互いの存在が支え合った共演関係

水沢林太郎 写真:武馬怜子
水沢林太郎 写真:武馬怜子

―――今回、共演されて、お互いの役や演技についてどのように感じられましたか?

桜田「亜紗が太陽ならば、凛久は月のような存在。この映画は太陽と月がうまくバランスが取れているからこそ成立していると思いました。それは水沢さんがちゃんと凛久として存在してくださって、亜紗を見守ってくれていたからだと思います。

同世代の俳優さんとして、凛久が水沢さんでよかったですし、たくさん刺激をいただきました」

水沢「そんなこと初めて聞きました(笑)。なんだか共演者のことを話すのは緊張しますね(笑)。桜田さんは俳優としてだけでなく、ひとりの人間として、役への向き合い方はもちろん、現場での振る舞い方、コミュニケーション能力の高さなど、共演して勉強になることがたくさんありました。

演技していないときも亜紗に見えることがあり、亜紗が桜田さんで桜田さんが亜紗みたいな……。それくらい役との距離を縮めていたと感じました。あと、これは桜田さん本人にも言いましたけど、目力がすごい!」

桜田「はい、言われました(笑)」

水沢「強さと優しさ、それぞれを表現するときに、力を使い分けながらも本気でぶつかってくる姿がとても印象的で、圧倒されました」

俳優の仕事の醍醐味とはー。

桜田ひより、水沢林太郎 写真:武馬怜子
桜田ひより、水沢林太郎 写真:武馬怜子

―――桜田さん、水沢さんともに、多くの作品に出演されていますが、演技は楽しいですか? 俳優の仕事の醍醐味について教えてください。

桜田「演じているときは『楽しい!』という気持ちではないのですが、1日の撮影が終わり、その日を振り返ったときに『楽しかったな』と感じます。醍醐味というか、俳優として好きな瞬間は、自分の話し方、伝え方ひとつで、相手の表情が変わったり、態度が変わったりするので、その変化の瞬間を見るのがとても好きです」

―――ご自身の演技に対して、どのような演技で返してくるのかと考えたり、受け止めたりするのはワクワクする瞬間でもありますよね。水沢さんは?

水沢「演じるうえでは悩みや葛藤もありますが、それを乗り越えてこそ楽しさが生まれると感じています。俳優という仕事の醍醐味は、自分ではない誰かの人生を生きられること。大きな責任も伴いますが、それだけにやりがいのある仕事だと思います」

―――今後、どのような俳優を目指していきたいと考えていますか?

桜田「私が人として大切にしているのは、“選択肢の多い大人になること”です。視野が狭いと、選択は1つしか見えなくなって、そこで思考が止まってしまう気がするんです。

だからこそ、たくさんの人と出会って、さまざまな経験を重ね、いろんな感じ方を知ることで、自分の視野を広げていきたい。そうすれば、選べる道も選択肢も増えると思いますし、きっと私が目指す姿に近づけると思います」

水沢「俳優として実力や実績を積み重ねていく中でも、人として大切なことは決して忘れたくないと思っています。言葉使い、周囲の方々への思いやりを忘れずにいることが大事だと思いますし、自分自身の成長にもつながっていくはずだと信じています」

―――お2人とも、「どんな俳優になりたいか」ということは、「どんな人間でありたいか」という思いと深く繋がっているのですね。では最後に完成した映画を見た感想を教えてください。

桜田「とても綺麗な映画だと思いました。茨城、東京、長崎の五島列島、全ての映像が美しかったし、夜空も素敵でしたけれど、ビジュアル面だけでなく、人と人とのつながりが良かったです。

“スターキャッチコンテスト”を成功させようと頑張っている姿は、とてもキラキラしていて、まさに“青春”そのものだったと思いますし、それが映像として残せて良かったと心から思います。この映画に懸けたスタッフさんとキャストの皆さんの想いが詰まっていて、本当に美しい映画仕上がったと思います。この映画に出演できて光栄でした」

水沢「僕は、自分が出ている作品を積極的に見られないんです。ビビリなので、恥ずかしくて怖くて不安で……。でも、出演した以上はちゃんと責任を持って観ようと思い、今回もしっかり向き合いました。そうしたら、作品を観終えたときに『報われた』と思える瞬間があって、気づけば泣き崩れていました…。

映像の美しさはもちろんですが、登場人物それぞれの感情がとても丁寧に描かれていて驚きました。マスク越しの演技だったので、気持ちがちゃんと伝わるか不安もありましたが、想像以上に素晴らしい映画に仕上がっているので、ぜひ多くの方に観てほしいです」

(取材・文:斎藤香)

【作品情報】

『この夏の星を見る』
2025年7月4日(金)より公開中
原作 : 辻村深月「この夏の星を見る」(KADOKAWA)
出演 : 桜田ひより
水沢林太郎 黒川想矢 中野有紗 早瀬憩 星乃あんな
河村花 和田庵 萩原護 秋谷郁甫 増井湖々 安達木乃 蒼井旬
監督 : 山元環
脚本 : 森野マッシュ
音楽 : haruka nakamura
配給 : 東映
公式サイト
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【了】

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