映画『となりの宇宙人』宇野祥平&前田旺志郎、対談インタビュー。”相思相愛”の2人が語る、演じることと生きること
宇宙人と人間の奇妙で優しい交流を描いた映画『となりの宇宙人』が公開中だ。本作で共演した宇野祥平さんと前田旺志郎さんに、撮影秘話から互いの印象、作品に込めた思いまでたっぷりと語っていただいた。どこか懐かしくも新しい“長屋SF”の世界、その舞台裏に迫る。(取材・文:山田剛志)
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タバコと豆腐と宇宙人──細部に宿るリアリティ
―――今回の映画は、宇宙人と人間の交流を描いたSFであり、山中貞雄監督の『人情紙風船』(1937)のような「長屋もの」としても楽しめる、ユニークな作品だと思いました。お二人の掛け合いがとても印象的でしたが、共演は今回が初めてですか?
宇野祥平(以下、宇野)「初めてですね」
前田旺志郎(以下、前田)「衣装合わせの時に初めてご挨拶をさせていただきました」
―――宇野さんは宇宙人の「宙」、前田さんは田所という青年を演じています。お二人の年齢差を感じさせない横並びの関係性が自然に表現されていると思いました。
宇野「僕が演じた宙さんは“惑星監視員”として、ずっと地球を見ていた。僕も前田くんが小さい頃からテレビや映画で観ていたわけです。惑星監視員としてね(笑)」
前田「なるほど(笑)」
―――宇宙人を演じられた宇野さんは、もしかしたら“あてがき”なのでは? と思いました。
宇野「小関裕次郎監督とはそれまで面識がなかったのですが、僕を念頭においてくださっていたと聞きました」
―――豆腐を初めて食べるシーンの食べ方が絶妙だと思いました。端をかじるように、歯を使わずに食べていましたね。細部のお芝居でフィクションを立ち上げようという意思をすごく感じました。
宇野「大変良い風に受け取っていただきありがとうございます。ちなみに、原作の宙さんには歯がないんですよ」
―――そうなんですね。本作は半村良さんの短編小説を基にしていますが、演じるにあたって原作の記述はヒントにされましたか?
宇野「このシーンに限らずですが、もちろん原作を参考にさせていただきましたが、現場に行ってみないとわからないことも多かったので、決めすぎないように心がけていました。小関監督も現場で生まれるものを大事にする方なので」
――― 一方で、タバコの吸い方はものすごく堂に入っていて、とても可笑しかったです。初めて吸うはずなのに長年ずっと吸ってきた、みたいな感じで吸うじゃないですか。長きに渡って遠くから人間を観察してきた宙というキャラクターがさりげなく表現されていると思ったのですが。
宇野「ほんと良く観ていただきありがとうございます。タバコの吸い方はある映画スターの影響を受けています。どなたかはご想像にお任せします(笑)」
―――どなたでしょうか(笑)。映画を見直したくなるお話です。
いまおかしんじとの共演に緊張も…自然に生まれた心地よい空気
――― 一方、前田さんが演じた田所は誰に対してもフラットに接する人ですよね。演じるうえでどのようなことを意識しましたか?
前田「多分、田所は敬語をうまく使えないだけなんだと思います(笑)。でも、不器用で真っ直ぐなところが田所の魅力ですね」
―――脚本を担当したいまおかしんじさんは、冒頭のシーンで前田さんと共演されています。ベンチに座って2人でタバコを吸うシーンなんですけど、心地よい緩さがあって、映画全体の雰囲気を決定づけている、という印象を受けました。
前田「ありがとうございます。そうですね、撮影したのは初日ではなくて、中盤くらいだったと思います。僕、いまおかさんとはそのシーンの時に初めてお会いしたんですよ。やっぱり最初はすごく緊張しました。もう撮影が始まっていたので、今さら『君の演じる田所、違うよ』って言われてもどうしようもないじゃないですか(笑)」
―――脚本家の前で演じるって、独特のプレッシャーがありそうですね。
前田「そうなんです。脚本を書いたご本人の前でキャラクターを演じる機会ってなかなかないですし、それに加えて一緒にお芝居までやるなんて…。最初はちょっと『やめてーーっ!!』って思ったりして(笑)」
宇野「でも、そうだよね。“こう来るんだ”って思われるかもしれないしね」
前田「そうそう! 現場では普段、あまり深く考えずに演じることが多いんです。監督が『違う』って言えば直すし、それ以外は自分の感覚でやる。でも、このシーンはやっぱりちょっと意識が入っちゃいましたね。だからすごく緊張しました。でも、現場で初めてお会いしたいまおかさんはすごく自然体で、飄々としていて。あのシーンには、いまおかさん自身の空気感が滲み出ている気がします」
―――いまおかさん演じる社長が田所に近づいていって、じゃがいもが入った袋をベンチにバンと置くじゃないですか。2人の間にある目に見えないバリアを解く合図のように映りました。このシーンは二人がお互いの顔にタバコの煙を吹きかけ合うところで終わりますね。
前田「あれはたしかアドリブだったと思います。 あんまちゃんとは覚えていないんですけど…いまおかさんと対峙していると何かやりたくなって…(笑)。その場で思ったんじゃないかな」
“さよならだけが人生だ” 宇宙人と役者
―――本作には、古き良き隣人同士のコミュニティが描かれていて、一見SFの装いをしていながらも、“地に足のついた”印象も与えます。この独特な世界観について、完成した作品をご覧になった今、どのように思われますか?
宇野「変な映画で、宇宙人が出てきたりしますけど、実は自分の実生活に近いんじゃないかと思いました。“さよならだけが人生だ”じゃないですが、出会って、別れて、その繰り返しが人生。そんなことを改めて思わせてくれる映画だと思いました」
―――宇野さんはこれまで数多くの撮影現場で、濃密な時間を過ごされてきたと思います。そして撮影が終わると、その関係性を潔く手放して次の世界へ向かう…。その姿勢は、まさに“宇宙人的”というか、役者という存在の在り方と重なって見えます。
宇野「どうなんですかね。よく“お祭りみたいなものだ”って先輩が言っていたんですけど、撮影って、みんながワーッと集まって、そして終わればサッと散っていく。スタッフ、キャスト、誰ひとり欠けずにまた同じメンバーになることは中々ないですもんね。続編でも難しいことだと思います」
―――宇野さんのお話を聞いて、宙さんという役柄と、宇野さんご自身の生き方が重なって見えてきました。
宇野「そうですかね(笑)。今回の“宇宙人”って、僕の中では、はっきりと“宇宙人だ”って言い切れる存在ではないような気もしますし、かといって人間とも言い切れないですし、でも宇宙人だし、宇宙人だと思い込んでいるオジサンかもしれないですし、もしかしたら田所の方が宇宙人かもしれないし、実は誰が宇宙人なのか、観る人によって解釈が変わったら面白いなぁとは思っていました」
前田「騙されているのかもしれないですよね。誰が本当の“宇宙人”なのか、わからない(笑)」
宇野「そうそう(笑)。できるだけ自由に観てもらえたら嬉しいですね」
映画『となりの宇宙人』が描く希望
―――今回、初めて共演されて、お互いをどんな“役者”だと思いましたか?
前田「いやもう、僕はすごく好きです(笑)」
宇野「だって、嫌いとは言えないでしょ(笑)」
前田「そもそも嫌いだったら、今日ここに来てません(笑)」
―――まさに心の声ですね(笑)。
前田「本当に、今日こうして作品のことを話せるのが楽しみだったんです。現場ではそこまでがっつり話す時間がなかったので。宇野さんは“懐の深さ”というか、包容力があるんですよね。監督の小関さんとの関係性も含めて、現場の温かい雰囲気はお二人から生まれていたと思います。僕自身、あまり細かく考えずにその場で湧いたものを正直に演じることができたのは、監督と宇野さんが作ってくださった空気感があったからだと思っています。すごく安心できる、楽しい現場でした」
宇野「いやいや、すごく良く言ってくれているけど、前田くんも同じですよ」
前田「いやいやいや(笑)」
宇野「本当に、みんなそう思っていると思うよ。今回の現場は10日間ほどの短い期間だったけど、現場に流れる時間がとてもゆったりしていて、それは小関監督はじめスタッフの皆さん、前田くんはじめ共演者の皆さん一人一人の人柄が大きかったです。宙さん共々助けられ、大変お世話になりました。本当に“映画の中にいるような”感覚がありました」
―――宇野さんから見た“役者・前田旺志郎”はいかがでしたか?
宇野「言葉にするのが難しいんですが、ちゃんと“そこにいる”人なんですよ。若いのに本当にすごいことです。誰に対してもフラットで、自然体。僕自身、学ぶところが多かったです」
前田「いやいやいや、本当に恐縮です」
―――先ほど、田所の印象について「どんな相手であっても分け隔てなく接するフラットな人」と申し上げましたが、前田さんご自身にそういう部分があるからこそ、お芝居に説得力があるのかもしれないですね。
宇野「田所よりも、前田くんの方がもっと純粋なんじゃないかな。あ、これは言わない方がいいか…ごめん(笑)。でも、宙さんを助けたり優しくしたりする田所の姿勢って、前田くんそのものに重なりますよ」
前田「ありがとうございます(笑)。この映画の魅力の一つは「宇宙人との距離の近さ」だと思っていて。宙さんが宇宙人だと知っているはずなのに、途中からそれを忘れてしまうくらい、みんながすごくフラットに接していたのが印象的でした。
それってすごく素敵なことだと思う反面、実は結構難しいことでもあるなと感じました。差別というほどじゃなくても、無意識のうちに人は他者を『自分とは違うもの』として見てしまいがちで、そういう潜在的な感覚って、やっぱり誰しもが持っていると思うんです。でもこの映画では、そういった垣根がきれいに取り払われていた。そこがすごく魅力的でしたし、映画の大きなテーマのひとつでもあると感じました。僕自身も、演じた田所のように、人に対して分け隔てなく接する姿勢を大事にしたいと改めて思いましたし、そこは田所を演じることによって教えられたことかもしれません」
宇野「前田くんは本当に器が大きい人なんですよ。しかも僕と地元が近くて。『大阪のどこかで一緒に働いていたかもしれない』って思えるくらいの親近感があるんです。でもきっと、どこで出会っても、前田くんはちゃんと“そこにいる”ことができる人だと思います」
(取材・文:山田剛志)
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