吉沢亮の振り切った演技が衝撃的…公開時期がズレて良かった理由とは? 映画『ババンババンバンバンパイア』評価&考察レビュー
映画『ババンババンバンバンパイア』が公開中。本作は、450歳のバンパイア・森蘭丸が銭湯の息子の純潔を守ろうと奮闘するラブコメディとなっている。今回は、森蘭丸演じる吉沢亮の振り切ったコメディ演技に注目しながら、本作の魅力を紐解いていく。(文・近藤仁美)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
異色設定が光るBL×バンパイア
7月4日公開の映画『ババンババンバンバンパイア』は、奥嶋ひろまさの同名の漫画をもとにした作品だ。監督の浜崎慎治は、KDDI au「三太郎」シリーズや家庭教師のトライ「教えてトライさん」シリーズで知られるCMディレクター。長編映画は今回が2作目である。
タイトルの「ババンババンバン」という部分が彷彿とさせるとおり、本作は“いい湯”がある場所、すなわち銭湯を舞台とする。ある日、齢450歳のバンパイア・森蘭丸(吉沢亮)が弱っていたところを、銭湯の息子・立野李仁(板垣李光人)が救助。森はそのまま銭湯で働くことになり、美少年である李仁の血を狙う。蘭丸が求める至高の味わいは、“18歳童貞の血”。それゆえ童貞を失う可能性がある恋愛をされては困るのだが……というストーリーだ。
また、原作が「BL(ブラッディ・ラブコメ)」を称するだけあって、本作にはラブコメディの要素がふんだんに盛り込まれている。登場人物たちの勘違いの連鎖や、思うに任せぬ恋愛模様、果ては名作のパロディまで、上演時間いっぱい飽きずに楽しむことができる。
『国宝』から一変、吉沢亮の演技の振り幅がすごい
さて、主演の吉沢亮は、先月(2025年6月)公開の映画『国宝』で間違いなく名を上げた。あちらの役どころは、芸にひたむきな歌舞伎役者。胸に迫るシリアスなシーンが印象的だった。対して、今回のキャラクターは、想い人のピュアさにのけぞりながら奇声を発するバンパイアだ。笑いに一直線の演技はいっそ清々しく、その振れ幅に脱帽した。
実は、『ババンババンバンバンパイア』は、当初の予定より公開が遅れていた。しかし、結果として『国宝』と同時期にスクリーンで観られることになったのは、むしろ僥倖かもしれない。縁あって両方の作品を鑑賞した人は、きっと役者・吉沢を再発見しただろう。
ちなみに、映画版『ババンババンバンバンパイア』の主要登場人物は、全員どこかしら“めんど面白い”。銭湯の息子・李仁は蘭丸を恋のライバルに認定して空回り、李仁が想いを寄せる葵(原菜乃華)はバンパイアオタクで蘭丸にぞっこん、李仁と葵の担任・坂本(満島真之介)はバンパイアハンターでありながら蘭丸に複雑な情念が……と、これだけでももう気持ちの矢印が追いつかない。
そんなキャラクターたちが、他の登場人物にいなされたり引かれたりしながらもなんのかんので気にかけあっている様は、どこかかわいらしい。作品全体に通底するあたたかさは、このあたりに起因するのかもしれない。
「なんかわかんないけど楽しい」を味わう怪作
一方で、ものごとの背景はもう少し知りたかった。もとは人であった蘭丸が、どのようないきさつでバンパイアになったのか。450年前から日本で生きているのであれば、外来語である「バンパイア」は、どの段階からなぜ彼らの自称になったのか。
その他にも、映画版には時折「え、そうなの?」「なんでだっけ?」と気になる場面が出てくる。それでも、この作品には、「わからないけどまあいいか」と思わせるだけの力がある。難しいことは脇に置いて、気楽に笑いながら観るのにぴったりだ。
なお、本作は歌もいい。主題歌の「いい湯だな 2025 imase × MIX」は、言わずと知れた昭和の名曲「いい湯だな」のアレンジカバーだ。手掛けたのは、シンガーソングライターのimase。まさに銭湯の湯にたゆたうかのような心地良さがあり、どこかクセになる。
登場人物の見せ場では、キャラクターソングも歌われる。これらの曲がほどよく説明となり、おバカですてきなラブコメをピリリと引き締めていた。こうした歌があったことも、 省略された情報を気にしすぎずに済む一要素だった。
全体として、夏本番に差し掛かるいまこの映画を観られたのは、実によい体験であった。甘酸っぱい夏の思い出が去来し、蘭丸でなくともそれぞれの思い出し照れや思い出し萌えができる、そんな作品であった。
【著者プロフィール:近藤仁美】
クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。株式会社凰プランニング代表取締役。これまでに、『高校生クイズ』『せっかち勉強』等のテレビ番組の他、各種メディア・イベントなどにクイズ・雑学を提供してきた。国際賞「Trivia Hall of Fame(トリビアの殿堂)」殿堂入り。著書に『クイズ作家のすごい思考法』『人に話したくなるほど面白い! 教養になる超雑学』などがある。
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