「芝居は楽しい。でも決して楽じゃない」『連続ドラマW 怪物』主演・安田顕が語る芝居への使命と覚悟とは? 単独インタビュー
2021年に韓国で放送され大ヒットを打ち出したドラマを原作に、WOWOWがリメイクした『連続ドラマW 怪物』が、現在放送・配信中だ。今回は、本作で主演を務める安田顕さんにインタビューを敢行。緻密な役作りや本作への想い、俳優としての在り方まで、じっくりと話をお聞きした。(取材・文:斎藤香)
挑戦するに値する役との出会い
―――『連続ドラマW 怪物』は、2021年に韓国で大ヒットしたドラマの日本版リメイクです。25年前に失踪した女性の双子の兄・富樫浩之(安田顕)が警察官になり、本庁から来たキャリア警察官僚の八代真人(水上恒司)と組んで、25年前と同じような猟奇的事件に挑む物語が描かれます。リメイク版の脚本を読んで、富樫という役についてどのように解釈されたのか教えてください。
「韓国のドラマ『怪物』(全16話)をじっくり鑑賞しました。シン・ハギュンさんが演じたイ・ドンシクが、今回僕が演じた富樫にあたる人物です。ドンシクにあって富樫にないもの、富樫にあってドンシクにないものを見極めながら役と向き合い、物語の展開の中で疑問に思ったことは、スタッフの皆さんと意見を交わしながら役作りを進めていきました。
ドンシクと富樫は、国籍の違いはあるけれど、オリジナルドラマの脚本家であるキム・スジンさんが生み出したキャラクターなので、本質は同じです。そこは決してブラさないように心がけました。キャラクターをアレンジしてしまったら、0から1を生み出したキム・スジンさんに失礼にあたりますから。慎重に丁寧に演じました」
―――安田さんは、韓国のオリジナルドラマ『怪物』を見て、このドラマと対峙するのは「与し難い」と感じたそうですが、その心は?
「物語自体が非常に面白く、ドンシクというキャラクターにも強く惹かれていたので、この役のオファーをいただいたときはとても嬉しかったです。ただ、リメイク作品ということもあり、ドンシクと富樫が比較されるかもしれないなと感じました。富樫は多くを語らないキャタクターですから、複雑に絡み合うストーリーの中で、彼の言動に1本筋を通さないといけない。その点が難しさでもありました。
オリジナルの『怪物』を何度も観て、ドンシクはこの場面でどういう気持ちなのか、どういう状態なのかと細かく分析して、紐解いていきました。僕が『与し難い』と感じたのは、挑戦するに値するポジションの役を与えてくれたことに対する感謝と、それに伴う責任を強く感じたからです。この役に挑むのは簡単なことではない。それに対して『与し難い』と思いました」
主人公の見えない心理に迫る安田流アプローチ
―――富樫役を作り上げていくことについて、監督とはどのように話し合ったのでしょうか?
「鈴木浩介監督、池澤辰也監督とは『このドラマの中心にあるのは何か』について話し合いを重ねました。決して独りよがりになってはいけないので、何度も台本を読み、話し合い、1番適したお芝居を模索し続けました。善人なのか悪人なのかわからない富樫というキャラクターの複雑さ、そしてその内側にある“決してブレない強さ”をどのように表現するか。そうした要素も踏まえつつ、役へのアプローチの仕方を提案させていただきました」
―――富樫の中にある、狂気と理性のバランスは、どのように考えて演じましたか?
「たとえば、自分の身の回りで思いもよらない事件が起こったとき、翌朝目覚めたら『夢だったのではないか、嘘であってくれ』と思う。その件に自分が深く関わっていても受け止められずに『自分じゃない』と思い込んでしまう…という可能性は誰にでもあると思うんです。疑心暗鬼、復讐心など、自分自身に置き換えて、自分の心理に近づけて考えました」
―――難役だったと思いますが、苦労したシーンはありましたか?
「富樫の行動には明確な説明が描かれていない部分も多く、『なぜこのような行動を取ったのか』と、自分で考えながら掘り下げていく必要がありました。だから、富樫の行動を時系列で整理し直して、場面ごとにどんな思考があったのかをイメージしながら役と向き合いました。
撮影の終盤、脚本家のキムさんとお会いした際、主人公の行動心理について聞いてみたところ、僕の想像とほとんど一致していて、自分の解釈が間違っていなかったと実感できたことも含め、富樫の心理を考えながら芝居に繋げていく作業は楽しかったです」
―――このドラマでキャリア警察官僚の八代真人を演じる水上恒司さんと初共演でしたが、共演してみた感想を教えてください。
「水上さんは学生時代に野球をやっていて、ポジションはキャッチャーだったそうです。キャッチャーの資質が俳優の仕事に良い影響を与えていると感じましたね。コミュニケーション能力も高いですし、視野も広い。流されず、自分をしっかり持っている方という印象でした」
作品に呼ばれる喜びと責任
―――最近ではNHK大河ドラマ『べらぼう』、連続ドラマ『ダメマネ』(日本テレビ)、さらに長澤まさみさん主演の映画『ドールハウス』など、話題作への出演が続いています。常にお仕事が途切れない印象がありますが、こうした俳優活動のペースや作品選びについては、ご自身で意識的に決めていらっしゃるのでしょうか?
「公開時期が重なっただけで、撮影したタイミングはバラバラなんです。でも、こうして途切れることなく仕事ができるのは、マネージメントをしてくれるスタッフの皆さんが、しっかりとプランを立ててくださっているおかげです。本当に感謝しています」
―――俳優として活躍する一方、バラエティーにも出演されていますが、俳優業とそれ以外のお仕事のバランスや今後のお仕事の展開についてご自身の考えを教えてください。
「僕は休みたくないんです。というのも、1日1日をどう生きるか、どういう仕事をするか、昔からそう考えて積み重ねてきた結果が今の自分に繋がっていると思っているからです。これまでのキャリアを、自分の人生にどう活かしていくか、どんな生き方をしていくのか…。最近はそうした“これからの人生”について考えることが多くなりました」
―――仕事を休みたくないほど、俳優という仕事に魅了されているということでしょうか?
「芝居は本当に楽しいです。でも、決して楽なものではありません。楽しいから全力で取り組むし、全力で取り組むからこそ、とても疲れる(笑)。とはいえ、作品に呼んでいただけるからこそ、この“楽しい仕事”を続けていけるんです。そして、その原動力になっているのは、映画やドラマを観てくださる方たちの存在です。“俳優・安田顕”を必要としてくださる方々がいるから、僕は俳優を続けられる…。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
安田顕が明かす役作りの本質
―――安田さんにとって、ズバリお芝居の楽しさとは何ですか?
「僕の出演作を観てくださる方が楽しんでくださることが大前提ですが、自分に正直に、恥ずかしげもなく言うとしたら、それは『カタルシス』です。俳優は、自分を解放できる仕事でもあります。自分のすべてを役に注ぎ込み、満足できるまでその人物に入り込むことができたとき、これほど幸せで心から楽しいと感じられる瞬間はありません」
―――自分を消して役に没入していくのでしょうか?
「俳優の仕事は、どこかタガを外さないとできないと思います。時には凶悪犯を演じることもあるでしょう。そのときに『こんな卑劣な役は演じたくない』 と思っていたら仕事にならない。役にも人生がある。社会的には悪いことでも、どんなに非常識なことでも、役にとっては“正義”という場合もありますから。そのような役の心理や行動は、自分としてはありえないけれど、だからこそ、逆にやりがいを感じることもあります」
―――最後に、完成した『怪物』を鑑賞した感想を教えてください。
「16話の韓国ドラマを10話にギュッと凝縮した濃厚なドラマに仕上がっています。特に1話の導入から事件が展開していくストーリーは見始めたら止まらない。全10話の連続ドラマなので、9話を見終わった時点で『早く10話が見たい!』と思わせたら勝ちだと思いますし、そう思っていただけるドラマになっています」
(取材・文:斎藤香)
【作品概要】
「連続ドラマ W 怪物」
放送・配信日:WOWOWにて放送、配信中<全10話>
【第1話&第2話無料放送】
出演:安田顕 水上恒司
剛力彩芽 藤森慎吾 真飛聖 早乙女太一 久保史緒里(乃木坂 46)
小手伸也 橋本じゅん 光石研 高畑淳子 / 渡部篤郎
原作:「怪物」(制作・著作:SLL JOONGANG Co.,Ltd 脚本:キム・スジン作家)
監督:鈴木浩介 池澤⾠也
脚本:前川洋一
音楽:大間々昂 斎木達彦
企画・プロデュース:松本太一
プロデューサー:⻘木泰憲 元信克則 河添太
制作プロダクション:ユニオン映画
制作協力:Orange
製作著作:WOWOW
ヘアメイク:西岡達也(ラインヴァント)
スタイリスト:村留利弘(Yolken)
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【了】