『鬼滅の刃 無限城編』の主題歌は何がすごい? 歌詞で心情が描かれた意外なキャラは? W主題歌に込められた意味を徹底考察。

text by 望月悠木

7月18日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。公開10日間で観客動員数910万人、興行収入128億円を突破し、勢いは衰えを知らない。繊細なストーリーや壮大なアニメーションに加え、シリーズを象徴する主題歌の存在も、驚異的な人気の一因だ。ここでは、これまでの『鬼滅の刃』を彩った楽曲を改めて振り返り、その物語性を読み解いていきたい。(文・望月悠木)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

※本記事には物語の結末に触れる箇所があります。鑑賞前の方はご留意ください。
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第1期の主題歌にふさわしい『紅蓮華』

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 まずテレビアニメ第1期のオープニング曲『紅蓮華』(LiSA)から。冒頭の「強くなれる理由を知った」という歌詞が示す通り、炭治郎の成長を描いた楽曲となっている。サビの「消せない夢も 止まれない今も 誰かのために強くなれるなら ありがとう 悲しみよ」といった歌詞は、悲しみをも感謝に変える炭治郎の優しさが表れている。

 また、「僕を連れて進め」と静かに歌った後に強烈なギターリフがかき鳴らされるが、普段は穏やかな炭治郎が家族を奪われた怒りや復讐心を爆発させる瞬間を想起させる。主人公の歩みを俯瞰しつつも、その心情を丁寧に酌んだ第1期の主題歌に相応しい楽曲と言えるだろう。

 続く劇場版『無限列車編』の主題歌『炎』(LiSA)では、炎柱・煉獄杏寿郎の死闘を炭治郎の視点で描いている。ただ、2番の「懐かしい思いに囚われたり 残酷な世界に泣き叫んで」という歌詞は杏寿郎視点とも捉えることもでき、杏寿郎が何を背負って戦っているのか、思わず思い出してしまう。

 曲調はゆったり目で、杏寿郎を失ったこと、さらには自身の無力さへの絶望感に打ちひしがれている炭治郎の心境がうかがえる。その一方で、杏寿郎から託された“炎”のように熱い思いが静かに胸に灯り続けていることを感じさせる。

成長を重ねる炭治郎と仲間たちに寄り添う楽曲たち

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 テレビアニメ第2期『遊郭編』のオープニング曲『残響散歌』(Aimer)は、遊郭という“夜の街”を舞台にした内容だけあって、和っぽい賑やかさが特徴的。「転がるように風を切って 躓くごとに強くなった」という一節で炭治郎の成長を描写する一方、音柱・宇髄天元がメインのシリーズのため、「曖昧過ぎる正解も譜面にして」など音楽に絡んだワードも歌詞に多く散りばめられている。他にも、「銀朱の月を添えて」は、銀色の髪や朱色の瞳といった天元のビジュアルを想起させずにはおかない。

 テレビアニメ第3期『刀鍛冶の里編』では、柱と上弦の鬼がそれぞれ二人ずつ登場し、複数の戦闘が同時進行する混沌とした物語が展開される。オープニング曲『絆ノ奇跡』(MAN WITH A MISSION ×milet)は、その熱気と緊張感を、力強さと繊細さが交錯するデュエットで見事に表現している。

 また、歌詞に大きな変化が生まれていることにも注目したい。1番のサビでは「解き放たれた心に宿した火よ」と杏寿郎から灯された火について言及されているが、2番のサビでは「解き放て今 僕らが起こした火を」となっている。

これまでは躓きながらも前を進む炭治郎の成長が描かれるケースが目立つ。ただ、『絆ノ奇跡』では炭治郎自身が火を灯す側にもなっており、「与えられるばかりではなく、誰かに何かを与えるようになったのだな」と炭治郎の成長を感じた。本編映像だけではなく歌詞からもその時その時の炭治郎の立ち位置が見えてくるのは面白い。

 テレビアニメ第4期『柱稽古編』のオープニング曲は『夢幻』(MY FIRST STORY × HYDE)。これまでの楽曲は炭治郎メインだったが、『夢幻』は「生まれ落ちた運命を飲んだ 背負った数の名前を覚えた」「繋いでいく繋いでいく 嵐に種を撒いていく」と、鬼殺隊の頭目・産屋敷耀哉の視点を思わせる歌詞が並ぶ。

「亡くなった隊員の思いは今も確実に受け継がれている」という耀哉の強い思いがうかがえるが、その一方で「君さえ居なければ」という一節は、鬼舞辻無惨の心情をも彷彿とさせ、両陣営のトップの思いが交錯する。最終決戦に向けた緊張感を高める楽曲だ。

W主題歌を採用した『無限城編』における楽曲の拡がり

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 無限城編はこれまで『鬼滅の刃』シリーズを彩ってきた2人が歌う『太陽が昇らない世界』(Aimer)と『残酷な夜に輝け』(LiSA)のダブル主題歌となっている。

『太陽が昇らない世界』は、「絶対の理不尽なダークネス」という歌詞で、鬼殺隊が抱える強い憎しみと戦いの過酷さを表現している。また、同曲は映画の序盤でいきなり流れるが、鬼殺隊がこれから待ち受ける“ダークネス”に身を投じる様子ともリンクしている。

ただ、同作では猗窩座の過去が描かれており、「もしあの日に戻れたら 知らないで生きていけたなら」という歌詞には、猗窩座の心の片隅にある「大切な人を失う前の世界に戻れたら」という切なる思いも想起させられた。また、無限城に漂う血生臭さを思わせる陰鬱とした曲調も、過酷な戦いをより鮮明にイメージさせてくれる。

 そして、エンディングに流れる『残酷な夜に輝け』は『太陽が昇らない世界』とは対照的に、漆黒の空から一筋の光を指し示す。「夜を超える僕らのうた 遠くまで響くように」という歌い出しとなっており、この決戦に懸ける鬼殺隊の意志がひしひしと伝わる。

 さらには、途中から重厚なバックコーラスも加わり、戦いで倒れていった仲間たちの思いが、残された者たちの背を押しているように感じられる。同作で命を落とした隊員は多い。それでも、その思いは他の隊員に、未来につながっている。深い悲しみを抱えながらも、それを乗り越えて上を向く力を与えてくれる、希望の歌である。

『鬼滅の刃』の主題歌は、炭治郎の心情や成長、仲間との絆を丁寧に描き、物語と強く結びついてきた。無限城編では、個の想いを超えて“隊”としての覚悟へと視点が広がり、最終決戦にふさわしい壮大なスケールを奏でている。今後の映画ではどのような楽曲が披露されるのか、今から楽しみだ。

【著者プロフィール:望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki

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【了】

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