渡辺翔太が示したホラー適正とは? 観客を引き込む「表情」の魅力に迫る。映画『事故物件ゾク 恐い間取り』考察&評価レビュー
Snow Man渡辺翔太が単独初主演を務める中田秀夫監督最新作『事故物件ゾク 恐い間取り』が、公開中。本作は、売れない芸人がネタ探しのために“事故物件”に住むという設定が話題を呼んだ作品の続編だ。今回は、渡辺翔太の声に注目しながら本作の見どころを紐解いていく。(文・加賀谷健)【あらすじキャスト 解説 考察 レビュー】
ホラー映画にピッタリな渡辺翔太の“絶叫”
福岡の工場で物凄い熱気に耐えながら、声を張り上げて現場を仕切る男性がいる――。日本ホラー界の巨匠・中田秀夫監督による『事故物件 恐い間取り』(2020)恐い間取り』(2020)『事故物件ゾク 恐い間取り』の冒頭に初登場したその男性はガスマスクを装着していて一見誰だかわからない。にもかかわらず、やけに甲高い声を伸びやかな声を発した瞬間、観客は気付く。マスクを外すまでもない。今作の主人公・桑田ヤヒロを演じる渡辺翔太だと。
2025年でデビュー5周年を迎えた国民的グループSnow Manのメインボーカルを担当することも多い渡辺は、俳優としても豊かな中音域をベースに役柄に合わせて高音と低音を使い分ける。タイトルロールを演じた主演ドラマ『青島くんはいじわる』(テレビ朝日系、2024)では、年下男性役のクールな声色をあえて低音の魅力で響かせ、多くの視聴者の耳をとろかした。
翻って広瀬アリス主演ドラマ『なんで私が神説教?』(日本テレビ系、2025)では、2024年1月期放送の主演ドラマ『先生さようなら』(日本テレビ系)で演じた美術教師役に続いて(数学)教師役を演じ、熱血キャラを特徴付ける最高音「おはよ!」が職員室に響き渡った。
その意味で渡辺翔太とは、ボーカリストとしての音域を自在に操る音響的俳優だとぼくは思っている。Snow Man初冠番組「それSnow Manにやらせて下さい」(TBS系)で担当するのが、不老不死になるための霊薬企画なのだが、初の海外ロケ(2024年10月25日放送)ではタイの奥地に分け入り、洞窟内でひたすら絶叫音を反響させていた。
そんな渡辺とホラー映画との相性はいいに決まってる。特徴的な高音で絶叫するだけでこの映画単独初主演作が成立してしまう。冒頭場面で響く伸びやかな高音は、その意気込みと存在感を十分過ぎるくらいに伝えている。
中田秀夫監督が捉えた渡辺翔太のベストアングル
本作は、そうした渡辺翔太の音楽的特性を画面上でくっきり輪郭付けながら、同時に俳優としての魅力をどんどん抽出する。甲高い一声で現場をリードするヤヒロを温かな眼差しで見守る社長・山中(滝藤賢一)との会話場面。高校を卒業してすぐ入社。10年以上勤務するヤヒロを高く評価する山中は、ゆくゆくは工場長のポストを考えていると話す。
でもヤヒロはその出世コースをあまり魅力的には思わない。彼が夢見るのは芸能界。タレントを目指して東京に出たい。いまさらそんなこと馬鹿げていると山中は老婆心から一蹴しようとするのだが、そう反応されてなおさらヤヒロは決意を固くする。
この会話場面ワンカット目に注目。やや引きの位置に置かれたハイアングルのカメラが上手から下手へゆるやかに移動する。ヤヒロと山中が向き合って話す後景では他の従業員が時折フレームに入る。画面に豊かな奥行きあるこの美しい夕景ショットからカメラがどんなふうに渡辺に寄るのか。気になって注視していると、2人の会話を交互に切り返す中、バストサイズで写る渡辺がぽこっと際立つ瞬間がある。
アングルにも注目。カメラが仰ぎ見るローアングルこそ、渡辺翔太を捉えるベストアングルだと誰もが納得してしまう。タレントになりたいと本心を伝えるヤヒロの切実な気持ちがエモーショナルに乗る画面上で渡辺翔太の表情、その顔そのものを捉えるためにカメラがほとんど本能的に選び抜いているかのよう。
中田秀夫監督がX上に「さまざまな角度から彼を見つめましたが、その時感じたのは、『撮りやすいお顔だなあ』でした」とポスト(6月29日)した「撮りやすいお顔」とは、まさにこのローアングルで選び抜いたワンショットのことだと思う。
視線の高さで恐怖を描く中田監督の演出術
カメラアングルを含む画面サイズ選びがさらに的確なのは、主演俳優の「撮りやすいお顔」をベストなショットで抜くだけではなく、本作全体を構成する2つのカットの組み合わせを創出していることだとぼくは考えている。
1つは「撮りやすいお顔」を捉えるローアングルのワンカット、もう1つは逆にホラー演出として作用するハイアングルのカット。実際本作は基本的にローアングルとハイアングルのセットで成り立っている。上京したヤヒロは「事故物件住みますタレント」としてキャリアをスタートする。自ら実験台となり、部屋に設置した定点カメラが心霊現象を捉える。その映像がネット上で公開される。
一方で観客は事故物件で生活するヤヒロの様子を捉えた俯瞰ショット(ハイアングル)で部屋全体を見渡す。サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督が不安と恐怖を煽るカメラ演出としてよくローアングルと極端なハイアングルを使用していたが、同様に中田監督も両アングルを駆使することでハイ&ローのホラー空間を全編に行き渡らせる。
“しょっぴーのバラエティセット”がホラーを照らす
ローアングルでは渡辺の顔にときめかせ、ハイアングルで「恐い間取り」を可視化するという采配。このアングル采配を基盤としながら、ユーモアを交えることにも余念がない。そのユーモアとは渡辺翔太がほんとさりげないけれど、はっきり目配せする本人のパーソナリティが担保している。
ヤヒロの芸能初仕事はCM撮影エキストラだった。ワクワクしながらロケ地の砂浜で待機していると、そこへ前作の主演俳優である亀梨和也が本人役で登場。それを見たヤヒロが「うわっ、亀梨和也だ!」と興奮する。
この「うわっ」こそ渡辺がバラエティ番組やSnow Man公式YouTubeチャンネルなどで連発する特徴的な口癖。あるいはCS番組で生放送する古い旅館ロケに出演したヤヒロが中継中、岡田圭右演じるMCから色白だといじられ「美白」に気をつけているからと答える。
上述した「それSnow Manにやらせて下さい」の“霊薬企画”もそうだが、アルビオンのスキンケアシリーズや湘南美容クリニックなどのアンバサダーを務め、美容男子キャラを確立する渡辺のパーソナルな目配せがこうやってホラー映画にも織り込まれる。本作はいわば、“しょっぴーのバラエティセット”を楽しむ作品でもある。
【著者プロフィール:加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。
2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
【作品概要】
タイトル:『事故物件ゾク 恐い間取り』
監督:中田秀夫
原作:松原タニシ「事故物件怪談 恐い間取り」シリーズ(二見書房刊)
出演:渡辺翔太(Snow Man) 畑芽育 山田真歩 じろう(シソンヌ) 加藤諒 金田昇
諏訪太朗 佐伯日菜子 ますだおかだ なすなかにし 河邑ミク 松原タニシ 大島て
る 田中俊行 亀本ゆず 笹原妃菜 櫂作真帆 森直子 笹原妃栞 正名僕蔵 / 滝藤賢一 吉田鋼太郎
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
公開:2025年7月25日(金)全国公開
©︎ 2025「事故物件ゾク 恐い間取り」製作委員会
【関連記事】
・【写真】渡辺翔太が事故物件に翻弄される…貴重な劇中カットはこちら。映画『事故物件ゾク 恐い間取り』貴重な未公開カットはこちら。
・「恐怖は時代に合わせて進化する」映画『事故物件ゾク 恐い間取り』中田秀夫監督が語るJホラーの行方。単独インタビュー
・Snow Man・渡辺翔太の演技を魅力的にする“声の魔力”とは? ファンがタイプロ友情出演を見て思うこととは? 徹底解説
【了】