映画『サマーウォーズ』の画期的な面白さとは? 評価&考察レビュー。時代が進むごとに味わいが増す理由とは?【あらすじ ネタバレ】

サマーウォーズ
映画『サマーウォーズ』のあらすじ(ネタバレあり)を紹介し、魅力を徹底解説。リアルとバーチャルの境界を越えて展開する壮大な戦いと、人と人をつなぐ温かな交流が織りなす本作は、公開から十数年を経てもなお色あせることなく、多くの人々の心を揺さぶり続けている。ノスタルジックな夏の情景と革新的なサイバースペース描写を融合させた名作を多角的な視点から考察する。<あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー>
映画『サマーウォーズ』あらすじ
小磯健二は、物理部に所属する高校生。一見平凡な青年だが、かつて数学オリンピックで優勝候補になるほどずば抜けた才能を持っていた。
ある日、健二は、憧れの先輩である篠原夏希から、彼女の曾祖母である陣内栄の90歳の誕生日会に「仮の婚約者」として同行するという突飛なアルバイトに誘われる。夏希の家は長野県上田の片田舎にある武家の末裔で、誕生日会には全国から親族が総出で集まる大家族。健二は、半ば騙される形で連れてこられたものの、陣内家の温かい歓迎を受け、まんざらでもない気持ちだった。
2010年7月30日午前0時25分、健二の携帯電話に謎の数字の羅列が送られてくる。羅列を何かの問題だと感じた健二は徹夜で暗号を解読し、謎の相手に答えを送信。そのまま眠りにつく。
翌朝、ニュースを見た健二は愕然とする。実は健二が解いた暗号は、世界中の人々が集まるインターネット上の仮想世界「OZ」の管理者用パスワードだったのだ。送り主はアメリカ発の人工知能ラブマシーン。ラブマシーンは、奪ったパスワードでOZを乗っ取ってシステムを悪用し、交通機関が麻痺させたり誤情報を流したりと、すでに現実世界を混乱に陥れており、健二は事件の犯人として報道されることになった。
実はこのラブマシーン、陣内家の「はぐれ者」である侘助が開発したもので、アメリカ政府機関が高く買ったものだったことが判明する。栄は、一家団欒に突然やってきた侘助に激昂し、薙刀を手に迫るが、混乱はラブマシーンが勝手にもたらしたものだと主張し、その場を去ってしまう。地球規模の危機を察した栄は、今まで培ってきた人脈をフル活用し、収束を画策。しかし、突如心臓発作で倒れて他界してしまう。
映画『サマーウォーズ』【ネタバレあり】あらすじ
翌朝、拓は、里伽子と元カレの岡田とお茶をすることになる。軽薄な恋愛話や、母親への悪口に花を咲かせる岡田に苛立ちを覚えた拓は、くだらない、と言い放ち席を立つ。拓の言葉を受け、里伽子は岡田のような男と付き合っていた自分を恥じるようになる。拓はそう語る里伽子に徐々に惹かれ始める。
東京旅行後、里伽子が酷い言葉で親友の松野を振ったことを知った拓は、里伽子と互いにビンタを食らわせ合う。秋になり文化祭の準備が進む中、拓は里伽子が女子たちに吊るし上げられている現場に遭遇するが、見て見ぬ振りをしてしまう。そのことを知った里伽子は再び拓にビンタを食らわせ、泣きながらその場を後にする。
事情を知った松野が拓に、なぜ里伽子を止めなかったのかと尋ねると、拓は「止めたってまた文句言われるだけだし」と答える。その瞬間、松野は拓を殴り飛ばし「お前は馬鹿だ」と言って去る。それ以来、拓と松野は疎遠になる。
回想後。空港には、拓を迎えに来た松野の姿があった。松野は、拓も里伽子のことを好きなのに遠慮していたため怒ったのだと打ち明け、和解する。同窓会に里伽子の姿はなかったが、友人伝いに拓は、里伽子には東京に会いたい人がいて、その人はバスタブで寝てしまう人だと聞かされる。
東京に戻った拓は、再び吉祥寺駅のホームで里伽子を見かける。拓は慌てて彼女に駆け寄る拓に、里伽子は深々とお辞儀をする。拓は、「ああやっぱり彼女が好きなんだ」と実感し、物語は終わる。
現実世界と仮想世界の融合
少年たちのひと夏の冒険を描いた『スタンド・バイ・ミー』(1986)や、シンクロに没頭する少年たちの青春を描いた『ウォーターボーイズ』(2001)のように、世の映画には、夏だからこそ楽しみたい映画が存在する。この『サマーウォーズ』も、間違いなくそんな作品の一つだろう。
監督は、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)や『バケモノの子』(2015)、『未来のミライ』(2018)など、家族のあり方や成長をテーマにした傑作を次々と生み出している細田守。キャストには、主人公・健二役の神木隆之介をはじめ、ヒロインの夏希役に桜庭ななみ、陣内家の個性豊かな面々に谷村美月、栄役の富司純子と、実力派の豪華俳優陣が名を連ねている。
本作の画期的な面白さを構成している要素、それはひとえに、観る者の心に深く響くノスタルジーを誘う描写と、革新的なサイバースペースの描写の融合にある。
あらすじでも述べたとおり、本作の舞台は夏の長野県上田市。作中では、縁側で蝉の声を聞きながら涼んだり、親戚一同で食卓を囲んだりといった「古き良き日本の夏休み」がふんだんに描かれている。都会の喧騒から離れた田舎の風景や人々の温かい交流、そして夏の終わりの寂寥感は、多くの日本人のノスタルジーを喚起させるものだ。
ただ、これだけでは凡百の「夏映画」と変わらない。本作が単なる「夏映画」に終わらない理由、それは、「OZ」で展開されるバトルシーンの面白さにある。
本作の終盤では、パワーアップしたラブマシーンを城のような構造物に閉じ込めたり、ラブマシーンに花札で勝負を挑んだらといったように、実にバラエティ豊かなバトルが展開される。これは、本作のバトルフィールドが、バーチャルの世界、つまり仮想現実であることに由来している。つまり健二たちはリアルタイムで現実を作りながら戦っているのだ。
なお、細田がこのような仮想世界でのバトルを描くのは本作が初めてではなく、2000年に公開された『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』でもすでにインターネット空間でのデジタルモンスターとの熾烈なバトルを描いている。
2000年といえば、SNSはおろか、ネットすらまだ十分に浸透していなかった時代だ。そんな時代に、現在のネット社会を予見するようなサイバースペースを描写していたことに驚きを禁じ得ない。
家族、友愛の共同体
さて、本作には、もう一つ外せないテーマがある。それは「家族の絆」だ。
本作の舞台となる陣内家は、室町時代から続く武家の末裔で、政財界に太いパイプを持っている。そんな陣内家の頂点に君臨するのが、御年89歳の当主、栄だ。
絶大なカリスマ性と厳格さを持つ栄は、家長として親族一人ひとりの状況を把握し、時に厳しく、時に優しく彼らを導いてきた。そして陣内家の面々も、彼女を中心に陣内家の誇りとプライドを守ってきた。いわば栄は、陣内家の「精神的支柱」であり、「法」だったのだ。
しかし、栄は、「OZ」による社会の混乱を前に、突然息を引き取ってしまう。絶対的な家長を失って混乱する陣内家の人々。そんな中、彼女は栄の遺言を見つけ、健二という「新たな家族」とともに再度立ち上がる。この一連の描写は、精神的な支柱を失った共同体が自立していく過程を描いていると言えるだろう。
ただ、家族という形態には欠点も存在する。それは、家族が同質性を志向しているからこそ、異質な「ならずもの」を産んでしまうという点だ。この「ならずもの」こそ、ラブマシーンの生みの親であった侘助に他ならない。
栄の夫で陣内家前当主の徳衛の隠し子だった侘助は、陣内家でも浮いた存在だ。東京大学を卒業後、一家の財産を持ち逃げして渡米。カーネギー大学ロボティクス研究所在籍中に人工知能ラブマシーンを開発、その後、アメリカ国防総省がこの人工知能を「OZ」に解き放ったことから、今回の事件が発生する。
一見すると、侘助の遍歴は栄への反発が動機となっているように思える。しかし、実のところ、彼の輝かしい経歴は、栄に認めてもらいたいという純粋な承認欲求が作り出したものだった。その点、無機質な仮想世界を暴れ回るラブマシーンに、家族という閉じたコミュニティに疎外感を抱きつつも、家族の温かさを求めようとする侘助自身の姿を重ね合わせるのもやぶさかではないだろう。
さて、興味深いのは、健二や陣内家の面々が、「OZ」とのバトルを通じてより大きな家族の形成へと向かう点にある。
先述の通り、本作には、物質的かつ身体的なリアリティに溢れた上田市と記号的で非物質的な「OZ」という一見対極的な世界が登場する。だが、物語が進むにつれて、この対比は単なる二元論で終わらないことが明らかになる。なぜなら、ラブマシーンの脅威に直面する中で、世界中の人々が国境や言語の壁を越えて手を取り合い、力を合わせるからだ。これは、まさに「OZ」の中で世界規模の家族が形成される瞬間といえるだろう。
なお、監督の細田は、インタビューで次のように答えている。
「グローバルとドメスティックの二項対立でどちらが良いかということではなく、世界で起こっている問題は家族の中の問題に収斂できるのではないかと。これを逆に言えば、家族の中で起こっている問題を普遍化すれば、世界の問題に行きつくんじゃないかと考えているんですね」(「『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー」CINRA)
ノスタルジーとテクノロジーが交錯する映画『サマーウォーズ』。それは、家族という普遍的なテーマを通じて、現代社会における新たな共同体のあり方を提示した作品と言えるかもしれない。
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