「スポンサーや配給会社に捉われない映画作り」映画『THE KILLER GOLDFISH』ユキヒコツツミ監督インタビュー
堤幸彦監督が新たにユキヒコツツミとして制作した映画『THE KILLER GOLDFISH』が、現在シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて上映されている。今回は常に新たな試みに挑み続ける堤幸彦さんにロングインタビューを敢行。制作の裏側から表現の原点についてなど、たっぷりとお話しを伺った。(取材・文:福田桃奈)
「スポンサーや配給・放送会社に捉われない映画作り」
自由な創作への挑戦
ーーこれまでの堤さんらしい作風を残しつつも新たなことに挑戦されていると感じ、ワクワクしながら拝見しました。本作は、堤幸彦×本広克行×佐藤祐市が制作指揮をとるプロジェクトSUPER SAPIENSSの長編第1作目となりますが、まずSUPER SAPIENSSについて教えてください。
「3年程前にプロデューサーの森谷雄さんが主催されている豊橋の映画祭で、本広克行さん、佐藤祐市さんと対談する機会がありました。その時に、お互いそれぞれ忙しく仕事をしているけれども、本当の意味で映画界やテレビドラマ界の中で自由に創作活動できるのかという問題意識が共通していました。
そこで、スポンサーや配給・放送会社に捉われない映画作りということで、まずは短編作品を1本ずつ撮り、それをまとめて映画を作ろうということになりました。コロナ後の今だからこそやるべきだという思いもあったのですが、動いていくうちに、僕や本広さんや佐藤さんの名前だけで動ける時代ではないということがはっきりと分かるようになりました。
そこで資金を従来の方式に頼らず、クラウドファンディングやToken(仮想通過)、NFTなど色んな形で世に出して資金を集めようという、最も現代的な動きから始まったのが“SUPER SAPIENSS”です」
ーー脚本を担当された萱野孝幸さんは、福岡から発掘されたそうですね。起用に至った経緯を教えてください。
「博多で僕が知り合った俳優さんや仲間が沢山いるんですけど、その中心に萱野さんがいて、彼がお撮りになる作品が素晴らしいんです。デビュー作『カランデイバ』(2018)という作品は3時間くらいあるんですけど、“福岡のドストエフスキー”と思うくらい重厚な作品で、地元の狭い経済社会の中でしっかりとした作品を作り続けています。
いつかご一緒したいと思っていたのですが、今回『そうだ!萱野さんに書いてもらおう』と思い立ち、ネアンデルタール人が遺伝子操作で改造された動物を使って復讐していくストーリーをオーダーしました」
ーー本作は、「ネアンデルタール人のホモサピエンスへの復讐」「金魚による連続殺人事件」「転生」という3つの柱から構成されていますが、テーマだけでもとても興味深いです。なぜこのようなテーマになったのでしょうか?
「金魚は人間の飼育のために品種改良されていて、それは犬や蚕もそうですよね。また人間よりも身体的に勝っていたにも関わらず、ネアンデルタール人やデニソワ人は数万年前に滅んでしまった。なぜ小賢しい私たちホモサピエンスが生き残ったのか?少なくとも彼らは面白くは思っていないだろうし、生物の根源的な復讐心や、図に乗っているホモサピエンスに対して何かしらのメッセージは絶対にあると思うんです。数年前の学説によると、我々の遺伝子の中にもネアンデルタール人は存在していますし、遺伝子の反乱を表現しようということで、金魚を兵器化しました。
また本作で“ホモイシュタールサイン”と呼んでいるものは、23対の染色体記号の3番目であるネアンデルタール人の遺伝子です。そもそも人間を超えたセンスや生き方を獲得しているギフテッドな人は絶対にいるはずで、ホモサピエンスでありながら、ネアンデルタール人やデニソワ人などの境界線に立つ者がいると思うんです。一見ふざけているようで実は意外と大真面目な物語なんですよ(笑)」
「エンタメとして本当に面白くないとシャレにならない」
インディペンデント映画を世界に
ーーアニメーションと実写のコラボレーションがとてもカッコ良かったです。元々アニメーションとのコラボは考えていましたか?
「80年代頃の海外バンドのミュージックビデオに、今回のようなアニメーションとのコラボのアプローチがあり、ずっとやりたいと思っていました。ただCG会社やアニメーション会社にオーダーすると、コンテ作りから始まり、一旦商売に落とし込んで考えなければいけない部分があります。そうなると当初持っていたノリやクレイジーな想像力が無くなってしまうという懸念点がありました。そこで今回は、多摩美術大学の学生に『あなたの持っている発想力で映像の繋ぎを考えて欲しい』とお願いして作っていただきました」
ーー本作で使用されている音楽のほとんどは、AIに脚本を読み込ませて制作されたそうですね。
「東京藝術大学の後藤英先生と、いつも音楽を担当している茂木英興さんに作っていただいたのですが、最初は何だか分からないものになってしまい四苦八苦したそうです。英語で読ませたところハリウッドのような音楽になり、そこから指示を入れて整えてと…なかなか手強い音源を形にしていただきました」
ーーエンドロール後に続編を予感させるVTRがありましたが、今後どのように発展していくのでしょうか?
「まず資金がないと撮れないし、この手の徒花のような作品は、1回目は温かい目で観てくれるけど、次はエンタメとして本当に面白くないとシャレにならない。数億近い近い資金を集めないと世界で勝負するレベルにはなりません。ただそれに対応する脚本はできています。
本作は、北欧に向けて作っている部分があり、スウェーデンでは2つの賞をもらったので一応目的は達したのですが、まさかの北米でも10月にハリウッドのチャイニーズシアターで上映されることが決まり、いよいよ本丸に攻め込むかという状態になっています。
日本での公開は、9月から毎週金曜日の上映に切り替わり、このまま1年間の上映を目指します」
「松本隆さんと村上春樹さん」
堤幸彦監督の表現の原点とは?
ーー前回インタビューさせていただいた映画『SINGULA』(2024)も、北欧に向けて作られた作品だったと仰っていましたが、北欧に対する想いがあるのでしょうか?
「ラース・フォン・トリアーの映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)や、アキ・カウリスマキ映画のような、どちらかというと暗い作品が好きなんです。やっぱり北欧の文化は我々の対極にあって、日本人の温度感ではなかなか出来ない。暗く不幸に落ちていく作品はあるけれども、北欧の閉ざされた感じや、閉塞感がありつつもカラッとしといる感じではない。『SINGULA』ではそういうイメージを持ちつつ、北欧に玉を投げたいと思い作りました」
ーーいつも新しいことに挑戦されているイメージですが、今一番関心のあることはなんですか?
「今年70歳になるので、そろそろ終活をしようかと考えていていたところ、葬儀屋さんから生前葬のプロモーションCMに出ないかと声を掛けられ、生前葬はなるほど面白いなと興味を持っています。
あとは先日、横浜アリーナでアイススケートショーの演出をしていまして、高橋大輔さんや荒川静香さんが出演されていたんですけど、アイススケート界にしゃなりと収まるのが嫌だったので、本格的な殺陣をSUGIZOさんのギターロックでやりました。めちゃくちゃ寒くて大変でしたが、アイススケートは通常の殺陣のスピードを遥かに上回るので、舞台表現として非常に面白かったですね。
そういったエンタメ表現の進化系みたいなものをもう一歩二歩やりたいですね。例えばラスベガスでスフィアという巨大なLED球体の展示があるのですが、それにも凄く興味があります。
普通は僕くらいの年齢になるとテクノロジーの進化を認めず人間的なものに寄っていくんでしょうけど、全然AIでいいじゃんと思っているくらいなんです。それと同時に、自分の中で一本筋が通っているのは、松本隆さんと村上春樹さんです」
ーー堤さんから、村上春樹さんと松本隆さんが出るとは少し意外でした。
「何も考えなくていい時はヘビーローテーションで何度も読んだり聞いたりするのが唯一の趣味です。そこには真理があるというか、僕が20歳の頃に感動したことを今も感動できるのかどうかと。それを本来ならば映画やドラマや演劇に基本形を求めるべきなんだろうけど、僕の出発点は村上春樹さんや、松本隆さんのバンド“はっぴぃえんど”にあります。自分を初期化したり、次の作品に向けてリフレッシュできるんです」
ーーちなみに一番好きな作品は何ですか?
「僕は少し変わったものが好きでして、村上春樹さんの『騎士団長殺し』です。この作品はなかなかですよ(笑)。結局は1作目の長編小説『風の歌を聴け』から積み上げてきたものなんですが、村上さんが60代で書いている作品なので、燻銀にならなければと思いながらもなれないというところが好きなんですよ。もちろん敢えてやっていらっしゃると思いますが。
松本隆さんは、“はっぴぃえんど”という70年代初期のバンドで、そこには細野晴臣さん、大瀧詠一さん、鈴木茂さんがいて、後のYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)やユーミン(松任谷由実)の基礎となっていると言われているけれども、ここに書かれている“都会との距離感がある”ところに凄く感動しますし、それは50年以上経った今でも感動できるんです。松本隆さんが西麻布からバスに乗って、大瀧詠一さんの住む街まで都電に乗り換えて行ったのかな?などと、想像するのが好きです」
ーー堤さんには既成概念に捉われたくないというロックな精神性がありますが、それは村上春樹さんや松本隆さんと共通しているように感じます。
「そうかもしれません。でも圧倒的に村上春樹さんも松本隆さんも物凄い博学であり、古今東西の表現に精通されているわけで、僕のようなチンピラとはだいぶ違うと思うので、名前を出すだけでもおこがましいくらいです(笑)」
ーー大変面白いお話をありがとうございました!続編、楽しみにしています。
(取材・文:福田桃奈)
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