「この役をやりきれるか、不安があった」映画『雪風 YUKIKAZE』奥平大兼が本作に込めた熱い思いを語る。インタビュー

text by 斎藤香

映画『雪風 YUKIKAZE』が、8月15日(金)より公開中だ。本作は、戦場で戦い最後には海から命を救い続けた、駆逐艦「雪風」の史実に基づく物語となっている。今回は、本作で駆逐艦「雪風」の若き水雷員を演じた奥平大兼さんにインタビューを敢行。本作で得た学びや、撮影の裏側など、たっぷりとお聞きした。(取材・文:斎藤香)
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初の戦争映画で、歴史を背負う責任感

奥平大兼
奥平大兼 写真:Wakaco

―――戦争映画への出演は初めてだったそうですが、最初に出演依頼を受けた時の気持ちについて教えてください。

「出演のお話をいただいたとき、俳優としての経験値が浅い僕にできるのだろうかと不安でしたが、プロデューサー、山田敏久監督、脚本の長谷川康夫さんとお話しさせていただき、作品に込める熱い想いに感動し、このチームで作り上げる作品に関わらせていただきたいと思いました。もちろん実在した駆逐艦の歴史を背負っている作品なので責任も生じます。が、スタッフの皆さんと俳優の先輩方の胸を借りて、チャレンジすることに決めました」

―――井上壮太のキャラクターについて、奥平さんはどのように解釈をして撮影に臨みましたか?

「僕はモノローグもさせていただいたので、井上目線で見る世界を言葉でも感じることができました。

映画の中で『雪風』の横をゼロ戦が通り過ぎるシーンがあり、仲間は『援軍だ』と喜ぶのですが、早瀬先任伍長だけ納得できない顔をしているんです。井上も仲間と一緒になって喜んでいたのですが、先任伍長を見て『これでいいのか』と感じ始める…。井上はそうやって『何が正しいのか』と、ひとつひとつ自問自答しながら任務についていたと思いますし、自分が置かれている状況を客観視できている青年だと思って演じました」

玉木宏との共演で得た安心感と学び

奥平大兼
奥平大兼 写真:Wakaco

―――本作に出演するにあたって、太平洋戦争についてリサーチしたりしましたか?

「広島の旧海軍兵学校にお邪魔して、当時の資料を見せていただいたり、関係者のインタビュー映像を拝見したり、横須賀の基地では護衛艦『やまぎり』の内部を見学し、模擬戦闘見せていただきました。『雪風』の形に近い艦で、船内の様子、その中での生活など見たり話を聞いたりできてよかったです。やはり実際に艦内に入るとリアリティが増し、演技にいい影響を与えてくれました」

―――撮影前にたくさんの学びを得たんですね。いろいろと学んだ中で印象深いことはありましたか?

「インタビュー映像を見て驚いたのは、実際に『雪風』で任務を遂行していた方が、艦や魚雷のサイズなど、細かい数字を正確に覚えていたことです。昔のことですから忘れていてもおかしくないと思うのですが、おそらく細部までしっかり覚えておかないと命に関わる壮絶な戦いを経験されたんだと。数字の記憶も戦争の痕跡として残ることに驚きました」

―――本作では竹野内豊さんや玉木宏さんと共演していますが、いかがでしたか?

「僕は俳優の仕事を始めてまだ5年ほどのキャリアなので、胸を借りるつもりで撮影に臨みました。玉木宏さんとのシーンが多かったのですが、本当に安心して芝居ができましたし、お芝居の相談も快く受け入れてくださいました。すごく頼もしくてかっこよかったです」

―――本作に出演されて、戦争についての考えが深まったり、変化があったりしましたか?

「これまで自分が考えてきた『戦争』というものに対する考えは変わりありませんが、視野が広がりました。駆逐艦『雪風』の役割、戦艦の中で起こることなど、この映画に出演しなかったら、何も知らないままだったと思うと、出演できてよかったですし、太平洋戦争で多くの兵士を救った『雪風』の活動と共に戦争の恐ろしさをきちんと伝えていける大人になりたいと思いました」

デビュー作で芽生えた俳優としてのやりがい

奥平大兼
奥平大兼 写真:Wakaco

―――キャリアについても聞かせてください。先ほど俳優として活動をスタートさせて5年というお話がありましたが、話題の映画、ドラマに出演し、順調にキャリアを重ねている印象があります。デビュー作『MOTHRマザー』(2020)で演技の仕事は面白いと感じたのでしょうか?

「まさにそうです。僕は人気者になりたいという願望はなく、『MOTHERマザー』で本格的にお芝居を経験して、すごく楽しかったし、やりがいを感じたんです」

―――それで、この仕事を続けていこうと思ったんですね。

「作品を重ねていくごとに、楽しさの形は変わっていきますし、作品のテイストや伝えたいことも違いますが、出演作を見た方が熱く語ってくださったり、本気で作品に向き合ってくださったりする姿を見ると『やってよかった!』と思います。それがたったひとりでも、その作品はとても意味あるものになると思うので、俳優としてさまざまな作品に取り組んでいきたいです」

―――デビューしてから現在に至るまでのキャリアの中で、スタッフや共演の方からの言葉などで印象に残っていることや刺激になった出来事はありますか?

「さっきの話と重複するのですが、お世話になっているプロデューサーさんがおっしゃっていた言葉が印象に残っています。ドラマ、映画は商業的なことも視野に入れながら制作される。それは多くの人に作品の世界を伝えるために『ヒットさせること』も意識せざるを得ないからです。しかし、何よりも大切なのは、作品のメッセージであり、そのメッセージがひとりでも誰かの心に刺さったら、それだけでも僕らの勝ちだと。その言葉はずっと僕の胸の中にあり、この仕事をする上での原動力になっています」

―――将来、目指す俳優像はありますか?

「明確に目指す姿はありません。お芝居についても、まだまだ学ばなければならないことばかりです。だからこそ、映画やドラマなど、お芝居にどんどん出演していきたい。声をかけていただける限りチャレンジしていきたいですし、全力で頑張りたいです」

空手を始めるきっかけは『燃えよドラゴン』

奥平大兼
奥平大兼 写真:Wakaco

―――「映画チャンネル」にご登場いただいたということで、奥平さんの好きな映画があれば教えてください。

「ブルース・リー主演作『燃えよドラゴン』(1973)です。僕はこの映画でブルース・リーさんに憧れて空手を始めたんです。ジャッキー・チェンさんの映画もよく観ますし、香港のカンフー映画は大好きです。

カンフー映画は、アクションのかっこよさ、ワクワク感、すべてが結集された素晴らしいエンタテインメントだと思うんです。中でも自分が最高に楽しめたのは『燃えよドラゴン』! ジャッキーさんの作品も含めて、子供の頃に夢中になった映画は、今でもときどき観ています」

―――ありがとうございます。ジャッキー・チェンは今も現役なので、共演できたらいいですね。

「そうなったら最高です!」

―――では最後に、完成した映画の感想を教えてください。

「僕が演じた井上は、ほぼ『雪風』艦内にいるので、それ以外のシーンがどのように撮影されているのかまったくわからなかったのですが、さまざまなドラマと『雪風』のエピソードが繋がっていたので、映画の力を感じたというか、言葉にならない感動がありました。

作品を客観的に見たとき、戦時中の人々は想像を絶する苦労がたくさんあったと思うのですが、そんな中でも小さな幸せを見つけたり、楽しみを見つけたりしていたんだなと。僕はそんなささやかな幸せを描いたシーンが印象に残っています。そこにも戦時中の人々のリアルがあると思うので。

ただの戦争映画じゃない、人間を描いている映画です。駆逐艦『雪風』の迫力をぜひスクリーンで感じて、登場人物たちのドラマにも注目していただきたいです」

(取材・文:斎藤香)

【作品概要】

『雪風 YUKIKAZE』
2025年8月15日(金)より、全国ロードショー
出演:竹野内豊 玉木宏 奥平大兼 當真あみ
藤本隆宏 三浦誠己 山内圭哉 川口貴弘 中林大樹 田中美央
田中麗奈 益岡徹 石丸幹二 中井貴一
脚本:長谷川康夫
撮影監督:柴主高秀
音楽:岩代太郎
VFX 監督:オダイッセイ
監督:山田敏久
協力:防衛省 海上自衛隊 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/バンダイナムコフィルムワークス
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