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プロフェッショナルの意見をガン無視
池松壮亮が言い当てた庵野秀明の本質とは?

主役の本郷猛を演じた池松壮亮Getty Images

本作の制作過程を追ったドキュメンタリー番組を観ると、「型を外したい」、「段取りに見えたくない」といった庵野秀明の発言が印象的だ。同番組ではスタッフ陣と庵野監督のすれ違いが赤裸々に描かれている。池松壮亮、柄本佑、森山未來が一堂に会したクライマックスの撮影では、アクション監督が示したプランを頭ごなしに否定し、アクションの造形を俳優陣に一任しようとする。

本作のスタッフ陣は、アクション監督を務めた田渕景也を始め、数々のアクション映画を成功に導いてきた精鋭揃い。言うならば、彼らが作り出す動きの型は、演者の体をケアしつつ、画面に迫力のあるアクションを定着させる、現代における最適解である。

それは長年に渡ってトライ&エラーを繰り返し、アップデートを重ね続けることで得た、かけがえのない技術である。しかし、庵野秀明はそうした技術をこそ否定し、ブラッシュアップされていない、野蛮なアクションを映画に呼び込もうとする。

そうした意味で、庵野秀明の演出の狙いを最も的確に把握し、その本質を言葉にしたのは主演の池松壮亮だろう。ショッカーとの戦闘シーンを撮り終えた直後、池松は「僕の勝手な解釈ですけど」と前置きをした上で、カメラの前で次のように語る。「もしアニメーションに勝てるとしたら“肉体感”と“生っぽさ”しかない」。

この事実を踏まえて改めて考えてみると、『シン・仮面ライダー』の演出にも合点がいく。例えば、アクションシーンでは、ライダーキックを食らったショッカーたちが派手に血しぶきをまき散らしながらこと切れる。また、森山未來扮するチョウオーグとの決闘シーンでは、床を転がりながら相手のマスクをはぎ取ろうとする、なんとも泥臭いアクションが展開される。

本作で庵野秀明が志向するアクションのキーワードとして、池松が的確に言い当てた“肉体感”と“生っぽさ”は、本作の至るシーンでしっかりと感じとれる。それが万人ウケするかどうかは別の話だが、少なくともドキュメンタリーを踏まえることで、初見時よりも深い角度で本作の“泥臭い”アクションを堪能することができるはず。本作の”問題点”と”魅力”は切っても切り離せない関係にあるのだ。

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