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随所に説明的なセリフも…。
商業映画×アート系映画の折り合いの難しさ

タイを代表する映画作家であるアピチャッポンウィーラセタクンGetty Images

さて、その上で、本作がアピチャッポンをはじめとする他のマジックリアリズムの作品ほどの強度を持ち得ているかは不明である。

例えば、脚本に関しては、(確信犯なのかもしれないが)随所に説明的なセリフが入るのが少し気になる。映像も美しくはあるものの、ところどころで明らかに不要なカットやコンセプトが曖昧なカットが散見され、全体的に散漫な印象がぬぐえない(冗長な映画=アート映画ではないはずだ)。

また、随所に商業的な演出が散見されるのも気になる。例えば、“ある事件”のシーンでは、逃走する未山の焦りをコマ落としのような演出で表現したり、後半、未山たちが美しいものを探しに山へ繰り出すシーンでは、フォトジェニックな映像に未山たち一家のわざとらしいモノローグが挿入されたりする。こういった演出は、今時の邦画でもあまり見ないベタな演出である。

思えば、本作のストーリーをなぞったサスペンステイストの予告編も、本作の内容とはいささか乖離したものだった。こういった齟齬からは、アート作品をシネコン向けに上映することへの葛藤や、マジックリアリズム映画を日本で制作することの難しさが表れているのかもしれない。

とはいえ、伊藤が単なる商業の枠には収まらない唯一無二の才能を持ちうる映像作家であることは変わらない。私個人としては、伊藤には、シネコンではなく、ミニシアター向けの作品を作ってほしいと思っている。彼女の今後にますます期待が高まる。

(文・柴田悠)

【作品情報】
『サイドバイサイド 隣にいる人』
監督:伊藤ちひろ
原案:伊藤ちひろ
脚本:伊藤ちひろ
キャスト:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、茅島成美、不破万作、津田寛治、井口理、市川実日子
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2023年製作/130分/日本
公式サイト

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