「映画館を出る時、お客さんには笑顔でいてほしい」
本作が“青春のラブコメディ”である理由
―――本作をコメディにすることは最初から決めていたのでしょうか?
「お涙頂戴的な映画にまとめられるテーマではあると思うんですよ。でもプロデューサーと意見が一致していたのは、『切ない話を切なく見せるのはやめよう』ということでした。もちろん、私も感動作を観るのは好きですけど、自分が作るときは、やっぱり最後、映画館を出る時、お客さんには笑顔でいてほしいという気持ちが強い。笑える映画にするというのは、プロデューサーが僕を監督に選んだ理由の一つだと思います」
―――本作は笑いにあふれた作品である一方、藤竜也さん演じる主人公・桃次郎と山口果林さん演じるヒロイン・サクラが長い年月を経て再会を果たし、心を通わせ合う姿が繊細なタッチで描かれてもいますね。
「先日、藤竜也さんが『徹子の部屋』に出演した時に、黒柳徹子さんが本作を評して『これは青春のラブコメディですね』って仰ったんですよ。僭越ながら『さすがトットちゃん、わかってる!』と思いました(笑)。たまたまキャストの方がお年を召されているだけで、青春のラブコメディなんですよ」
―――キスシーンなど、わかりやすい描写がなくても、手が触れ合うだけでキュンとする気持ちが描かれていたと思います。
「好きな人と手が触れただけで心がときめく瞬間の素晴らしさは、いくつになっても変わらない。そういう気持ちを忘れていた人でも、手を重ねることによって、もしかしたら気持ちが蘇るかもしれない…そういったことを表現したかったのです」
―――とても簡潔で、深みのあるユニークなラブシーンになっていると思いました。
「ありがとうございます。実は当初、ラストシーンは最終日に撮りたかったんですけど、スケジュールの都合もあって、かなり早い段階で撮影したんですよ。
しかし、藤竜也さんも、山口果林さんもプロフェッショナルですね。お2人は初共演なんですけど、深みのあるセリフまわし、手の重ね方、目線の送り方など、もう本当に昔馴染みの関係にしか見えない。
当初は、撮影期間を重ねて、呼吸も合ってきたところで撮る方が良くなるんだろうなと思っていたのですけど、これだけの大ベテランに僕の浅はかな考えは通用しないですね。恐らく撮影初日のワンカット目でも同じ芝居がやれていたと思いますよ。心から『すげえなぁ』と思いました。もしキャリアの浅い役者さんだったら、そうはならないのかなぁと思いますね。
普段は現場でそういうことはしないのですけど、あのシーンを撮った後、藤さんと果林さんに『一緒に写真を撮ってもらって良いですか』って。ただのファンになってしまう瞬間がありました」