ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 「心から“すげえなぁ”と思った」藤竜也、80代最初の主演映画『それいけ!ゲートボー ルさくら組』野田孝則監督インタビュー » Page 3

「僕にとって“心の兄貴”のような存在です」
監督も舌を巻く名優・藤竜也のプロフェッショナリズム

©2023それいけゲートボールさくら組製作委員会

―――本作は藤竜也さんにとって、80代最初の主演作となりますが、藤さんの出演は初期の段階から決まっていたのでしょうか?

「メインのキャストとして、最初に決まったのが藤さん。主演・藤竜也という軸が決まったあとに、他の方のキャスティングを進めていきました。桃次郎役を誰にしようとなった時、『日本で一番ゲートボールをしなさそうな方にお願いする』というのがコンセプトでした。そこで挙がってきたのが藤さんでした。

出演交渉をしたところ、決め手はギャラではないと。『脚本を読んで決めます』というお返事をいただいたんですよ。『もしお断りされたら俺の脚本がダメだっていうことだよなあ』と、相当ビビりました…(笑)。そうしたらば、脚本を送って3日経たないうちに『出させていただきます』というお返事をもらって…。その日の焼酎は美味しかったですねぇ」

―――今回、野田監督と藤さんは初タッグとなったわけですが、それまで藤竜也という俳優に対して、どのようなイメージを持たれていましたか?

「僕は子供のころからテレビを通して藤さんを見て育った世代に属しています。衝撃的だったのが、向田邦子さんらが脚本を書いたドラマ『時間ですよ』。藤さんは、小料理屋の片隅に陣取って、サングラスで目を隠し、セリフをほとんど発さずにずっと酒を飲んでいる風間という役を演じていたんですけど、子供ながらに『なんてカッコいいんだろう』と。50年近く前ですね。

当時はサングラス姿がトレードマークだったと思うんですけど、その後、サングラスを外した姿もお見掛けするようになって…。そもそも僕は、藤竜也さんが出演する煙草のCMに憧れて喫煙を始めましたからね(笑)。ご一緒に仕事をさせていただく前から、僕にとって“心の兄貴”のような存在ですね」

―――クランクイン前に藤さんと交わしたやり取りで、印象的だったエピソードはありますか?

「とにかく脚本の読み込みが凄いと思いました。主人公の織田桃次郎という人間になりきるために、様々な角度から人となりを探求されるんですよ。『桃次郎は高卒ですか?それとも大卒ですか?』というところから始まり、登場人物が歩んできた人生を自分の中に落とし込みたかったのでしょう。それもあり、メインキャスト全員分の年表を作ってお渡しました。

序盤の方で、桃次郎が行きつけの小料理屋で1人飲んでいるシーンがありますよね。そこで木村理恵さん演じる女将から『菊男さんは親友でしょ』と言われるのですが、それに対する桃次郎のリアクションとして、僕は脚本に一言『親友ねえ』と書いたんですよ。

すると、藤さんは『脚本の中で、その一言だけわからない』と。親友と呼ぶのもためらわれるほど付き合いが長すぎて照れくさいというのもあるだろうし、桃次郎にとって菊男はある意味で悪友でもあり、盟友でもあり、仲間でもあり…。『他人から見ると親友同士に映るんだろうな、俺たちジジイは』という気持ちもある。

その一言をめぐって藤さんと打ち合わせをするうちに、脚本を書いた僕自身も『確かに難しいセリフだよなぁ』と気付かされました。本番では、藤さんは言い回しを変えてくださっているのですが、どのようなセリフになっているのか、ぜひ注目してほしいですね」

―――藤さんと、脚本をめぐる濃厚なやり取りをされたことで、脚本づくりに向ける意識も変わってきそうですね。

「凄い勉強になりました。真のプロフェッショナルは、たった一言のセリフであっても、どんな気持ちで呟いているのか、とことん考え抜く。生半可な気持ちでシナリオを書くことはできないなぁと改めて思い知らされましたね」

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