「藤竜也さんが三船敏郎に見えてきたよ」
伝説の撮影監督の一言にしびれる
―――今回、撮影は髙間賢治さん、照明を上保正道さんとスタッフ陣も百戦錬磨のベテラン揃いですね。
「僕、髙間さんのご著書を愛読するほどのファンなのです。ご一緒する機会は一生ないだろうなと思っていたので、プロデューサーから髙間さんの参加が決まったと知らされた時は震えましたね。
当初はカット割を自分で全部考えるつもりだったんですけど、打ち合わせを重ねるにつれて、『こりゃ髙間さんにお願いした方がいいわ』と思って。打ち合わせの時に、『基本的にカット割りは髙間さんにお願いします』って伝えたんですよ。そしたら苦笑いして、 『俺が全部やんの!?』って。とっても嬉しそうでした(笑)」
―――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
「緊張したし、時間も無くて大変だったんですけど、終わってほしくないという気持ちが強かった。『この時間がずっと続いたらいいな』と思いましたね。
髙間賢治さんも素晴らしかったし、上保さんも素晴らしかった。ある時、髙間さんが撮影した映像を見てポツリと言った、『藤竜也さんが三船敏郎に見えてきたよ』という一言が忘れられません。
藤さんは、本当に素晴らしい年輪の重ね方をされていますよね。しょぼくれることもなく、変に肩肘張ることもなく、素直に藤竜也として年齢を重ねている。かっこいいですよねぇ」
―――撮影を通して、藤さんの魅力を再発見されたのですね。
「そうですね。撮影中は毎朝、僕のところに来て色々と提案をしてくださいました。『監督、おはようございます。今日撮るこのシーンですけど、こうしたらどうでしょう』と、天下の藤竜也が直立不動で敬語ですよ。反射的にこっちは背筋ビシッ!です。
また、提案の内容から、ちゃんと脚本を読み込んでいただいているのが伝わるんです。提案してくださる時は、『もちろん監督が嫌なら却下していただいて構いませんので』と一言添えてくださいます。結局8割以上は使いましたね。こっそり却下したのもありましたけど(笑)。
あと、何より驚いたのは現場で脚本を開かない。映画ですから、撮り順がバラバラなので、『えーっと今日撮るシーンは…』と脚本を開くのが普通なんですけど、藤さんに関しては脚本を開いているところを一度も見たことがない。というか、現場に持ってきてなかったと思います。
セッティング中は、椅子に座ってじーっとしていらして、その姿がまた画になるんですよ。藤さんは今でも体を鍛えていらっしゃって、『藤さんずっと鍛えていらっしゃるんですか?』って聞いたら、『ちょっとだけね』って仰っていましたが、ちょっとであんな体にならないですよ。僕、影響されて筋トレ始めましたもん(笑)」
―――随所で声を張り上げる場面がありますが、声のハリが、それこそ映画『ションベンライダー』(1983)の時とまったく変わっていないのに驚きました。
「本当に良い声をされていますよね。120歳くらいまで役者をやられるんじゃないかしら。というかやってほしいですね。背筋もピンとしているし、足腰も丈夫だし。
あ、そうそう煙草の話で思い出したのですが、御本人に『藤さんの煙草のCMで煙草吸い始めたんですよね』って言ったら、『最近、妻に言われて禁煙してます』って言われて、『何だよそれ!勘弁してくださいよ』って(笑)。そんなやり取りも嬉しかったですね」