都市伝説に材を取った村ホラー〜演出の魅力〜
本作は、『樹海村』(2021年)『牛首村』(2022年)と続く「実録!恐怖の村シリーズ」三部作の第一作。監督は清水崇で、主演の森田奏を三吉彩花が演じる。
本作の特徴は、「実在する都市伝説をテーマにしている」という点に尽きるだろう。タイトルにもある犬鳴村は、福岡県の旧犬鳴トンネルの奥にあるとされる集落で、放置が及ばず、そこに立ち入ったものは生きては戻れないとされている。
この手の物語は、ネットやSNSを中心に語られる「ネットロア」(インターネットとフォークロアを掛け合わせた造語)の一種である。実際、旧犬鳴トンネルでは、1988年に凄惨な殺人事件が起きており、2000年には犬鳴ダムで死体遺棄事件も発生している。そうしたことから、犬鳴峠付近は全国有数の心霊スポットとして知られ、肝試しを目的とした訪問客が絶えず、映画のヒットによって人気に拍車がかかった。
とはいえ、「犬鳴」という区画が福岡県宮若市に存在することは確かだが、「犬鳴村」という名称の村落は都市伝説上にしかない、純然たるフィクションである。かつて宮若市には「犬鳴谷村」という名前の集落があったが、本作で描かれているような、外部との接触を遮断した異様な共同体が形成されていた事実は一切ないのだ。
江戸時代中期に生まれたという犬鳴谷村は、明治以降は市町村合併によって名称を変え続け、1986年には前述の犬鳴ダム建設のため、住民は近隣の地区に移動。かつて犬鳴谷村があった場所はダムとなっている。
本作では、ダム開発をめぐるおどろおどろしいエピソードを物語に組み込むことで、フィクションでありながらノンフィクションのような説得力を持たせることに成功。そうした戦略が功を奏し、比較的低予算でありながら、興行収入14.1億円のスマッシュヒットを記録した。
なお本作には、「恐怖回避ばーじょん」というものがある。これは、本作のヒットに気をよくしたスタッフが発案したもので、本作の恐怖シーンに可愛い犬を登場させたり、かわいい効果音をつけたりすることで本作の恐怖を緩和したもの。
この手の企画は、確かにホラー映画に馴染みのない層やカップル客にはいいかもしれないが、「かわいくしとけば客が集まる」という安易な発想によるもので、企画自体は思いっきりスベっている。やらないに越したことはなかっただろう。