旅の発端となる「黒い絵」の謎
ある古物商を訪れた岸辺露伴は、そこで販売されていたオークション誌に目が止まる。その雑誌には、モーリス・ルグランという画家が描いた、女性の髪の毛と蜘蛛の巣が混ざったような漆黒が描かれている「黒い絵」が紹介されており、興味を示す。
担当編集者の泉京香と共に、その絵が出品されているオークションに参加した岸辺露伴は、150万円にて「黒い絵」を落札。そして、「露伴さんって、誰かに似ていると思ったら、モナ・リザに似てますよね」という泉の言葉を受けて、あることを思い出す。
露伴が思い出したのは、10年前に出会った奈々瀬という女性から聞いた、300年前の画家/山村仁左衛門が描いた「この世で最も黒い絵、最も邪悪な絵」が、ルーヴル美術館に存在するという話である。少し前に、モーリス・ルグランの「黒い絵」を競り落とした露伴は、この絵自体も、気にかかる。絵の裏の作者のサインと共に記された「後悔」という文字も含めて…。
映画冒頭に描かれるこのエピソードは原作にはなく、映画オリジナルのシーンである。露伴がネットを通じて「この世で最も黒い絵」について調べたところ、ルーヴルに山村仁左衛門の絵画は存在しないとわかる。しかし、胸騒ぎが止まらない露伴は泉と共に、取材旅行と称してパリへ飛ぶ。
このパートは、原作では登場しなかった泉京香を、レギュラーキャラクターとして紹介するという機能を果たしているのに加え、これから2人の旅が始まるといったワクワク感を満喫できるという点でも素晴らしい。
ちなみに原作では、「モナ・リザに似てますよね」という言葉は『ジョジョ』のレギュラーキャラである虹村億泰のセリフである。露伴は虹村の言葉によって「この世で最も黒い絵」のことを思い出し、1人でパリに向かうのだ。しかし筆者の印象では、映画版の方が物語の流れとして自然であると感じた。