青年期の回想シーンには長尾謙杜を起用
冒頭のエピソードが終わると、岸辺露伴の青年期を回想する10年前のシーンに移行する。このパートは、回想とは言え、原作同様、かなりの尺が費やされる。
露伴の祖母は、かつて亡き夫と温泉宿を経営していた。現在はいくつかの部屋を、賃貸アパートとして貸し出している。当時、まだ漫画家としてデビュー前の露伴は夏休みの間、その一室を貸してもらい、漫画の執筆に勤しんでいた。
そこに、前述した本作の重要人物である、奈々瀬が別室に移住してくる。洗濯物を干す奈々瀬に見惚れた露伴は、思わず、彼女をスケッチブックにデッサンする。
その後、露伴は奈々瀬に恋心を抱くのだが、彼女は露伴が描いたデッサンを見るなり、「こんなものッ!こんなものッ!」と、態度が豹変し、絵にハサミを突き立てるという奇行に出る。この後、原作では奈々瀬は「私を許して」というセリフを発するが、映画版では彼女の声を聞かせない、という演出がなされている。
また、奈々瀬は露伴に対し「あなたは似ている」という謎めいた言葉を告げるのだが、こちらも映画オリジナルのセリフだ。いずれの改変もクライマックスの布石となっている点に留意してほしい。
キャスティングにも触れておこう。青年期の露伴を演じるのは、長尾謙杜。壮年期と青年期を同じ俳優が演じても違和感は生じないだろうが、本作ではあえて別の俳優を立てている。
個人的には、本作での長尾謙杜の抜擢は、大正解であると思う。観る前は、冷静沈着な露伴の青年期としては、ちょっとイメージが幼すぎるとの懸念もあったが、唐突に悲しみをあらわにする奈々瀬を抱きしめ、「あなたを守ってあげたい」と、抱擁するシーンは圧巻。
自分より大人の女性とのひと夏の恋を介して、青年から大人の男性になりつつある露伴がそこにはおり、現在の高橋演じる露伴に成長したと解釈すれば、まったくもって見事な配役ではないだろうか。