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カンヌ国際映画祭で高評価。映画『逃げきれた夢』は、名バイプレイヤー・光石研の魂の芝居に震える傑作。忖度なしガチレビュー

text by 柴田悠

名バイプレイヤー・光石研の12年ぶりの単独主演作『逃げきれた夢』が公開中だ。今年5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭の 「ACID部門」に正式出品された話題作。平凡な男の人生のターニングポイントを描いた本作の魅力を深掘りするレビューをお届けする。(文・柴田悠)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

「私」という窓。気鋭・二ノ宮隆太郎が描く希望の物語

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
©2022逃げきれた夢フィルムパートナーズ

ひとは孤独な生き物だ。生まれる時だって死ぬ時だって、みな一人で生まれ、一人で死んでいく。私たちはみな、目の前にいる他者の人生を生きることはできない。単に「私」という窓を通して、外側の世界やこの世界を見ているに過ぎないのかもしれない。

私がこんなことを思ったのは、『逃げきれた夢』を見たからだ。本作は、人生のターニングポイントを迎えた男が新たな一歩を踏み出すまでを追った人間ドラマ。これまで多くのトップクリエイターを輩出してきたフィルメックスで新人監督賞を受賞したほか、カンヌ国際映画祭のACID部門でも上映され、話題を呼んでいる。

監督は『枝葉のこと』(2017年)が国内外で評価を受け、俳優としても活躍する気鋭・二ノ宮隆太郎で、主演は『あぜ道のダンディ』(2011年)で知られる名バイプレイヤー・光石研。なお、光石にとっては本作が12年ぶりに単独主演作となる。

主人公は、北九州の定時制高校で教頭を務める末永秀平。彼はある日、教え子だった南が働く定食屋で会計を忘れて店を出てしまい、自身が記憶の病を患っていることを明かす。これまでのように生きられなくなってしまった彼は、これを機に、「それまでの人生」と「これからの人生」を考え始めるー。

本作の特徴は、なんといっても「北九州のご当地ムービー」であることだろう。出演者は、光石をはじめ、南役の吉本美憂、旧友の石田役の松重豊ら福岡県出身者が勢揃い。また、光石自身「九州弁がカンヌに轟く快感に身震いする」と述べているように、冒頭から最後までフランクで温かい北九州弁の応酬が続きなんとも心地良いのだ。

しかし、本作が世界的な評価を受けた理由は単なるご当地ムービーだからではない。冒頭でも述べた通り、本作のポイントは、人間の普遍的な問題である「孤独」を巧みに描出している点にある。

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