人間の孤独をあぶり出す秀逸なカメラワーク
会話劇が軸となって進行する本作では、古き良き小津映画を思わせる端正な「切り返しショット」が多用されている。しかし、カメラ目線の人物を真正面から捉えた小津映画とは異なり、本作の場合は登場人物がやや斜めから捉えられる。つまり、彼らの眼差しは、明確に映画の外にいる人物に向けられている。
しかし、本作のショットでは、会話の間の長い間(ま)や環境音の静けさも相まって、画面外の印象がかなり希薄になっている。そのため、まるで存在しない幽霊を相手に一人芝居を演じているような何とも言えない閉塞感が終始漂っている。
この手法がとりわけ際立つのは、周平が家族に辞職を伝えるシーンだろう。自身のこれまでの働きを一切労おうとしない家族に、自問自答をぶつかる周平。およそ6分に及ぶ長尺のショットだが、この間妻と娘が合いの手を入れることはない。
4:3という正方形に近い画角も相まって、まるで周平と妻、娘たちが会話を交わしながらも同じ空間にいないような印象すら感じられる。