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人生の深みを感じさせる光石研の表情

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
©2022逃げきれた夢フィルムパートナーズ

人間が抱く実存的な孤独感。このテーマにさらなる深みをプラスしてくれるのが、周平役の光石研の演技だろう。教え子の南や旧友の石田に、自身の思い出のを無邪気に語る周平。そんな彼が、一人になると哀惜や後悔が入り混じったような複雑な表情を見せる。

作中では、そんな彼の表情が「地」となり、そこからさまざまな感情が「図」として立ち上がってくる。

特に印象的なのは、老人ホームで暮らす父との会話のシーンだろう。堅物で厳格だった父への自身の思いを滔々と語る周平だが、彼の父は周平のことを認識できていないのか、なんの反応も示さない。

さて、注目は、彼が会話を終え、父の元を去ろうとする瞬間だ。今にも泣き出しそうなその表情からは、腹を割って自身の思いを伝えたところでかつての父はそこにいないという無念さがひしひしと伝わってくる。

なお、演技といえば、南役の吉川美憂も外せない。特に終盤、周平と会話をするシーンでは、強気な態度の中に自身の境遇への苛立ちや悲哀をにじませ、観客の胸を打つ。

また、石田役の松重豊は、安定感のある演技で光石の演技をサポートしている。

さて、本作では、随所に周平の部屋の窓から覗いた北九州の海の景色が挿入される。周平は毎日、この窓からどんな景色を見てきたのだろうか。
(文・柴田悠)

【作品情報】

光石研 吉本実憂 工藤遥 杏花 岡本麗 光石禎弘 坂井真紀 松重豊 監督・脚本:二ノ宮隆太郎
製作総指揮:木下直哉 プロデューサー:國實瑞惠 関友彦 鈴木徳至 谷川由希子
撮影:四宮秀俊
照明:高井大樹
録音:古谷正志
美術:福島奈央花
装飾:遠藤善人
衣装:宮本まさ江
ヘアメイク:吉村英里
編集:長瀬万里
音楽:曽我部恵一
助監督:平波亘
制作担当:飯塚香織
企画:鈍牛倶楽部
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
制作プロダクション:コギトワークス
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
公式サイト

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