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“怪物”の正体とは何か。映画『怪物』を辛口考察。近年屈指の傑作…LGBTQの表現は? 見落とせない欠点とは?

text by 柴田悠

カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞の2冠を達成した映画『怪物』が公開中だ。「怪物だーれだ」と連呼する少年の声が印象的なミステリアスな予告編が印象的な本作は、複数の解釈に開かれた複雑な物語となっている。今回は本作の魅力と疑問点に鋭く迫るレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】(文・柴田悠)

是枝裕和×坂元裕二―日本映画の“怪物”タッグ

©2023「怪物」製作委員会
©2023怪物製作委員会

夜の闇に不気味に沈んだ湖、夜空へと燃え盛る炎。そして、けたたましく鳴る消防車のサイレン。当代きってのヒットメーカーがタッグを組んだ2023年最大の話題作は、タイトルにふさわしく何とも不穏な空気で始まる。

『そして父になる』(2013年)でカンヌ国際映画祭審査員賞を、『万引き家族』(2018年)では同祭の最高賞となるパルム・ドールを受賞し、名実ともに日本を代表する監督となった是枝裕和。近年は活躍の幅を世界に広げ、『真実』(2019年)では、ジュリエット・ビノシュやカトリーヌ・ドヌーヴが、『ベイビー・ブローカー』(2022年)ではソン・ガンホやぺ・ドゥナをキャスト陣に迎えている。

そんな是枝が約5年ぶりに国内で制作した本作では、脚本を『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)などの坂元裕二が担当。第76回のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、大きな話題を呼んでいる。

なお、是枝が他者の脚本を映像化するのは、デビュー作となる『幻の光』(1995年)以来28年ぶりのこと。なぜ他者の脚本を映画化しようとしたのかについて、是枝は次のように語っている。

「こんなことを言うと坂元裕二ファンには怒られるかもしれませんが、加害者遺族、赤ちゃんポスト、子どもたちの冒険旅行、疑似家族と、同じモチーフに関心を持たれている方だなと親近感を抱いていました。(…)そして何より、その題材をとてつもなく面白いものに着地させる手腕には、羨望と畏敬の念の両方を抱いていました」

また、坂元自身も、是枝の印象を次のように語っている。

「是枝さんは学年もクラスも違っていて話したこともないけど、時々廊下で目が合ったり、持ってるものを見て真似して手に入れたくなる、憧れの存在のような人でした」

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